COP30において、GX経営促進WGが削減貢献量に関する講演を実施。削減貢献量の社会実装に向けた議論が行われました。

2025.12.19

2025年11月14日(現地時間)、COP30会場内ジャパン・パビリオンにおいて、経済産業省・WBCSD(World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための経済人会議)の共催によるイベント「削減貢献量を企業価値の向上に繋げる -より実践に向けた道筋を歩むために-」が開催され、GXリーグからGX経営促進ワーキング・グループ(GX経営促進WG)が今年度の活動を踏まえた発信を行いました。

2024年のCOP29での本イベントでも産業・金融分野における国際的な基準の重要性について議論が行われましたが、COP29以降にも、国際機関や金融機関を中心に新たな動きが出始めていることを踏まえて、低炭素ソリューションの社会実装とファイナンスを加速させるための取組について意見が交わされました。

本イベントはCOP27より継続して開催されていますが、ブラジルで行われた今回も会場は満席、立ち見も出る盛況ぶりでした。削減貢献量の注目度の一層の高まりが感じられました。

GX経営促進ワーキング・グループによる講演(野村ホールディングス、パナソニックホールディングス)

GX経営促進WGを代表して、WG幹事企業である野村證券より濟木ゆかり氏が登壇、今年度のWGにおける議論の成果として、金融機関と企業の「対話」の重要性について講演しました。

濟木氏はまず、「気候関連の機会における開示・評価の基本指針」などこれまでのWGの成果物を紹介しながら、金融機関と事業会社が対等な立場で対話・議論を行う本WGの特徴と意義を説明。
低炭素ソリューションの普及に向けては、「金融機関と低炭素ソリューション提供者である事業会社の対話が継続的に行われること」こそが重要だと指摘しました。

金融機関と事業会社の「対話」の重要性(講演資料より)
金融機関と事業会社の「対話」の重要性(講演資料より)

続けて、その対話を通じたWGメンバー企業の活動成果として、自社が今年3月に公表したレポートが本WGの事業会社との対話をきっかけに作成されたこと、日本政策投資銀行が今年10月に公表したレポートでは、企業との対話・エンゲージメントを重視する方向性が示されていることを紹介。直接金融、間接金融など金融機関の中での取組みの多様性を説明しながら、WGにおける対話の価値を強調しました。

次に、同じくWGリーダー企業であるパナソニック オペレーショナルエクセレンスの上原宏敏氏が登壇し、WGの取組として重視してきた算定・開示の標準化、事業会社・金融機関の事例の収集と蓄積、積極的な個社の開示を強調しました。

その一方でGXリーグ内でも削減貢献量の開示がまだ十分に広まっていないことを踏まえ、欧州金融機関が中心となって設立されたAvoided Emissions Platform(気候ソリューションの削減貢献量を統一的に算定・公開する情報プラットフォーム)をWGに招待、削減貢献量の普及に向けた論点についてWG内で議論を重ねたことを説明しました。

上原氏はWGでの議論結果に触れ、「国際標準に整合したデータベースは有意義」としつつ、個社の開示と相互補完で活用されることが重要であり、金融機関と事業会社の対話が重要であることは変わらないと指摘。引き続き、さまざまなステークホルダーとの連携に取り組むと述べ、講演を結びました。

そのほかにも、当日の様子をご紹介します。

削減貢献量の普及加速に向けて

本セミナーの開会にあたり、経済産業省イノベーション・環境局より、福本拓也大臣官房審議官(GXグループ担当)が登壇。COP開催地ブラジルと削減貢献量の関連性に触れつつ、GXリーグにおけるGX経営促進WGの成果物を中心に日本の取り組みを紹介したうえで、削減貢献量の枠組みがイノベーションと脱炭素を加速させることへの期待を述べました。

WBCSD Dominic Waughray氏による講演

セミナー冒頭には、共同主催者であるWBCSDのExecutive Vice Presidentを務めるDominic Waughray氏による講演が行われました。

まずWaughray氏は、2022年シャルム・エル・シェイクで開催されたCOP27にて日本と共に削減貢献量の普及にコミットしたことを振り返り、以降の標準化やガイダンス策定の進捗について感謝を述べました。

続けてWaughray氏は削減貢献量の国際標準化に向けた動きを紹介。WBCSDがISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)や欧州委員会など各国政府とも連携を深めていることや、GFANZ(Glasgow Financial Alliance for Net Zero: ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟)やPCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials:金融向け炭素会計パートナーシップ)といった企業連合に属する金融機関も動き始めていることを説明しました。

WBCSD主導で策定した最新版ガイダンスの特徴を紹介したうえで、結びの言葉として「削減貢献量は、“やるべきだ”というCOPの場において“実際に進んでいる”稀有な例である」としたWaughray氏。日本政府や各国企業の貢献を称えました。

ケーススタディの紹介

セミナーでは、GX経営促進WG以外にも多数の企業が登壇、削減貢献量の開示や活用に実際に取り組む企業のケーススタディが紹介されました。ダイキン工業の小山師真氏、仏VeoliaのJean-Pierre Maugendre氏、みずほフィナンシャルグループの山我哲平氏が登壇、それぞれの取組みを説明しました。

小山氏は、「冷房需要が2050年には2倍以上となる」と指摘。企業が削減貢献量をKPIとして活用し低炭素技術導入を推進、投資家がその気候貢献度を評価するサイクルの重要性を強調しました。
Maugendre氏は開催地ブラジルで実施されている埋立地における自社のメタン回収技術について説明。メタン回収による温室効果の低減に加えて、エネルギー利用による削減貢献量の創出事例を紹介しました。
山我氏は冒頭にて、削減貢献量に関して自社が顧客に提供可能な幅広いソリューションのバリューチェーンを掲示。金融商品に対してさまざまな活用法があり得る削減貢献量のポテンシャルを強調し、実際に削減貢献量を活用した「Mizuho削減貢献量インパクトファイナンス」を紹介しました。

登壇企業によるパネルディスカッション

モデレーター:小野礼二郎氏 経済産業省GXグループ地球環境対策室 室長補佐

パネリスト:
大畠 彰雄氏 野村アセットマネジメント サステナブル投資戦略室 室長
上原 宏敏氏 パナソニック オペレーショナルエクセレンス 執行役員 品質・環境担当
小山 師真氏 ダイキン工業 CSR・地球環境センター担当部長
山我 哲平氏 みずほフィナンシャルグループ サステナビリティ企画部 担当部長
Jean-Pierre Maugendre氏 Veolia Vice President Nature & Biodiversity

会場ではその後、経済産業省の小野礼二郎地球環境対策室室長補佐の進行のもと、登壇企業によるパネルディスカッションを実施。

小野氏からは事業会社、金融機関それぞれに対して削減貢献量の活用について質問。事業会社が削減貢献量をどのように活用して競争力強化に向けた社内意思決定に反映させているか、また金融機関が削減貢献量をどのように投資判断に組み入れており、そのために企業にどのような開示を求めているかについて、活発な議論が行われました。

本イベントでは、削減貢献量を活用した金融機関・事業会社の最新の取組や相互連携が広まっていることを示し、さまざまなステークホルダーの対話・協働が改めて認識されました。
GXリーグとしても、GX経営促進WGの活動を中心に、削減貢献量の普及とGXの実現に向けて貢献をしていきます。