
2025年12月8日、今年度1回目となる「GXサロン」を立命館大学 大阪いばらきキャンパス(大阪府茨木市)で開催しました。GXの進展に伴いニーズの高まる「GX人材育成」をテーマに、最新の取組に関する講演のほか、参画企業同士のディスカッションや情報共有を通じて交流を深めました。
イベント前半には講演が行われ、経済産業省と立命館大学が登壇。GX人材育成に向けて、「官」「学」それぞれの立場から推進する取組を紹介しました。
「官」の立場から——経済産業省によるプレゼンテーション

2050年のカーボンニュートラル実現に向け、政府は企業の競争力を強化するにあたって、GX人材育成・確保への投資を重要項目のひとつに位置づけています。大手人材紹介会社の調査では、国内のGX人材の求人は2016年度比で約6倍に増加。今後、GX-ETS義務化や情報開示が進むにつれて、さらに増加する見通しです。
需要が高まる一方で、人材不足は大きな課題となっています。GXリーグでは2023年から「GX人材市場創造ワーキング・グループ」を設置し、ルール形成に取り組んできました。2024年5月には、GXに関わる人材の類型ごとに持つべきスキルを具体化した「GXスキル標準」を発表し、今後のGX人材市場創出を目指しています。加えて、GX人材育成に積極的な大学が開講する関連プログラムを参画企業に周知し、産官学連携を後押ししています。
同省 GXグループ 環境経済室の増田氏は、「産業構造が変化する中、戦略部門の人材確保は喫緊の課題」として、①知見の共有、②中小・中堅企業の支援環境整備を進めていく方針を示しました。①の具体策として、2025年3月に「GX関連企業における人材確保に関する取組事例集」を公表。②については、商工会議所をはじめとする地域の支援機関等が中小企業をサポートする体制構築に向けて、研修会などを実施していく予定です。また、GX2040ビジョンで掲げる「公正な移行」を後押しすべく、労働者や地域への悪影響を軽減するために必要な支援を行っていく考えです。
このほかの人材育成支援策として、蓄電池、半導体、洋上風力など個別産業における取組を紹介。一方で、すべての産業にGX人材育成の取組が行き渡っている状況ではないとの現状を示しました。「GX人材の課題は分野や産業毎に様々であり、日頃GXに取り組んでいるみなさんが抱えている課題や考えをぜひ聞かせていただきたい」と、積極的な意見交換を呼びかけました。
講演の最後に、増田氏は、次年度以降のGXリーグの活動方針について説明。GX-ETSが本格稼働するのに伴い、次年度からはGX製品・サービスの需要創出を加速化する枠組みへと刷新する考えを示しました。「企業を起点としたボトムアップの取組は継続しながら、GX需要創出に取り組む企業を評価する仕組みへと見直していく」と増田氏は述べ、参画要件として、スコープ1、2の排出量算定に加え、GX需要創出へのコミットメントを求めていくとしました。
「学」の立場から——立命館大学によるプレゼンテーション

立命館大学は、2022年に「日本バイオ炭研究センター」を設立し、産官学民連携でバイオ炭による炭素除去の社会実装を推進しています。経営学の観点からGX価値創造を目指すとともに、関連領域の人材育成にも取り組んでいます。
2025年9月には、GXを推進する“社会実装人材”の育成を目指すリカレントプログラム「GXプロフェッショナル+Rプログラム」(文部科学省令和6年度補正予算「リカレント教育エコシステム構築支援事業」)を開講。同大学 経営学部教授、社会共創推進本部副本部長の依田祐一氏は、「企業ではリーチしづらい3年〜7年先を見据えた研究開発投資と、社会実装を融合させることが重要。大学だからこそ実現できる人材育成の形を構築していく」と、プログラムの発端について語りました。
プログラムは、同大学の先端研究と先進企業が集うGXネットワークのハブとなっており、目的や職位に応じて3つのコースを選択できるほか、リスキリングの証明となるデジタルバッジが発行される仕組みです。現在は学生・一般層向けのオンデマンド講座、事業立案・推進者向け、経営者向けの対面講座と、3層からなる講座を行っており、「日頃の連携活動を通じて企業とコミュニケーションを図り、プログラムに生かしている」という、企業のニーズに即した設計も強みとしています。
社会実装をキーワードとする通り、「特に実務者や経営者向けの対面講座では、インプットで終わるのではなく、実際にアクションを起こすことを重視している」と依田氏。研究や政策に関する最新情報を提供するだけでなく、参加者が講義を通じてアクションプランを作成するワークショップを盛り込むことで、受講後に自社に持ち帰って提案や実践につなげられるよう工夫しています。受講者からは意欲的な感想や今後への期待が多数寄せられており、対面講座では講義終了後に懇親会を行うなど、新たな交流も生まれています。
2030年のカーボンニュートラルキャンパス実現を宣言し、大学における脱炭素の取組をリードするだけでなく、学生から社会人まで幅広いGX人材の育成に力を入れる同大学。依田氏は、「サステナビリティという複雑な課題をどのように理解し、多種多様な学びの分野から自分の研究するもの、できることを考えていくか——“学”の現場から改革を進めていきたい」と、今後の活動に意気込みました。
グループ交流で自社の課題や意見を共有
講演に関する質疑応答と短い休憩ののち、テーブルごとに分かれてグループ交流を行いました。参加の動機やGX人材育成に関する問題意識をシェアしながら、およそ30分間、自由にディスカッションを行い、参画企業同士の交流を深めました。

本イベントは、これまでGXリーグでは機会が限られていた「学」のプレーヤーとの貴重な連携の場となりました。閉会の挨拶では、事務局の佐藤より、会場の提供と意義深い取組をご紹介いただいた立命館大学への謝意とともに、師走の慌ただしい時期に参加いただいた参画企業のみなさまへ感謝を伝えました。「次期GXリーグに関する取りまとめ案でも触れられている通り、GX人材育成はサプライチェーンでの排出削減やGX需要創出にも大きく関わり、重要性が高まっていく。参画企業のみなさまの積極的な取組に期待したい」と、次年度からの活動のいっそうの加速化を呼びかけました。