「GX市場創造」をテーマに第2回GXスタジオを開催

2025.03.14

2025年2月21日、GXリーグ参画企業同士が自由な対話を通じて交流を深める「GXスタジオ」を開催しました。2024年9月に続き今年度2回目の開催となった今回のテーマは「サプライチェーン全体での脱炭素~GX率先実行宣言によるGX市場創造の加速を目指して~」。企業の脱炭素の取り組みの視点が企業単体の脱炭素化からサプライチェーン全体での脱炭素化へと移りつつある中、GX市場の創造に向けた政策動向や企業の率先的な取り組み事例などの最新情報を共有しました。東京の会場には約50社の代表者が集まり、多業種によるグループディスカッションで活発に意見交換。また、イベント前半の模様はオンライン配信を行い、100社を超える参画企業が視聴参加しました。


省庁プレゼンテーション

経済産業省の竹下敬太氏
経済産業省の竹下敬太氏

初めに、経済産業省 GXグループ 環境経済室の竹下敬太氏より、GX関連の政策動向と、2024年12月に新設された「GX率先実行宣言」に関する講演がありました。

竹下氏は、国内のGXを加速させるにはGX市場の創造が不可欠だと強調。世界的なカーボンニュートラル政策の中で、各国は政策競争を繰り広げており、日本も2023年7月に策定した「GX推進戦略」のもと、経済成長と排出削減の両立を目指して政策を進めています。2月18日には、このGX推進戦略を改訂した「GX2040ビジョン」が閣議決定されました。より長期的視点に立ったビジョンを示すことで企業の事業環境の予見性を高め、国内投資を後押ししていくねらいです。

GX市場創造のカギとして、GX製品(脱炭素投資を伴い生産される製品)の競争力向上が挙げられます。「現状では、GX製品は非GX製品に比べコストが高く、既存の価値評価軸では差別化されないことが課題」と竹下氏は述べ、解決策として、①カーボンプライシング、②GX製品の付加価値向上(価値の見える化)を進めていくとしました。②の具体化策の1つとして、需要側からも市場創造を促進するため、2024年12月に「GX率先実行宣言」を立ち上げました。

「GX率先実行宣言」は、企業が需要家としてGX製品・サービスを積極的に調達することを宣言する自主的な枠組みで、需要サイドからGX製品の供給を刺激することでGX市場の創造を促すものです。取り組み状況の具体度に応じて3つのグレード(ゴールド、シルバー、ブロンズ)に分かれており、宣言企業には補助金優遇などの支援策を講じてGX製品・サービスの社会実装を加速させる考えです。竹下氏は「GX率先実行宣言はGX2040ビジョンにも位置づけられており、GXリーグの枠を越えて拡大・強化していきたい」と力を込め、宣言の輪の拡大に期待を寄せました。また、政府も需要家としての立場から公共調達を通じて需要を創出していくべく検討を深めていくとしました。

宣言企業によるパネルディスカッション

続いて行われたパネルディスカッションでは、「GX率先実行宣言」をいち早く行った参画企業から、JFEスチール、田中鉄工、積水ハウスの3社が登壇。各社の取り組みや、宣言提出までの経緯などについて共有し、社会全体のGX実現に向けた議論が深められました。

① サプライチェーン全体における脱炭素の取り組み

各社は自社の事業活動だけでなく、サプライチェーン全体での排出削減を目指しています。JFEスチールはグリーンスチールの市場創出に向けた技術開発や国際標準化、田中鉄工は道路舗装業界における地域密着型の脱炭素支援活動、積水ハウスはZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及推進に取り組んでおり、それぞれ具体的な削減目標を設定して推進しています。

② GX率先実行宣言の内容

3社はともに、期限を定めた定量目標を掲げ、「ゴールド」グレードで宣言を行っています。

●積水ハウス

積水ハウスの寺西一浩氏
積水ハウスの寺西一浩氏

積水ハウスは、1万台を超える社用車の排出量削減が大きな課題であったことから、一定割合をEVとし、再エネ由来の電力による充電を行っています。宣言では「2030年度までに社用車の電動化率を100%にする」ことを掲げ、各拠点への充電インフラ整備を進めています。同社ESG経営推進本部 環境推進部 環境マネジメント室の寺西一浩氏は、「経済的・合理的な方法で実現可能な手法を模索していく」とし、着実に推進する姿勢を示しました。

●田中鉄工

田中鉄工の神谷一木氏
田中鉄工の神谷一木氏

田中鉄工は、中間需要家としての積極調達を目指し、「2030年度までに使用鋼材をすべてグリーンスチールに転換する」との宣言を掲げました。市場動向を見ながらICP(インターナルカーボンプライシング)を1万円程度に設定しています。同社GX推進室の神谷一木氏は、「グリーン製品は今後ますます市場に投入されていく。購入を通じて貢献していきたい」と述べ、市場の加速拡大を見据えました。

●JFEスチール

JFEスチールの鷲見郁宏氏
JFEスチールの鷲見郁宏氏

JFEスチールは、電気自動車への転換、水素調達、CCS、グリーンスチールの製造など、多岐にわたるGX施策を宣言しています。供給側としてグリーンスチールの市場創生に貢献することに加え、需要側としても業界横断的な取り組みを推進。同社GX推進本部 GX企画部の鷲見郁宏氏は、「サプライチェーンで機運を高め、宣言の輪を広げたい思いがある」とし、需要・供給の両面で役割を果たしていく重要性を強調しました。

③ 宣言提出までの社内関係者の巻き込み、意思決定プロセス

各社は共通して、経営層のコミットメントを得ながら関連部署との連携を強化し、社内全体で脱炭素化への意識を高める推進体制を整えています。JFEスチールは、GX戦略本部を中心に社内のハイレベル会議で具体的な宣言内容を策定。まずは幅広い項目で宣言し、市場の変化に柔軟に対応しながらロードマップを修正していく方針です。一方、田中鉄工は、経営層とサステナブル戦略室が直結する組織構造のため、社内の巻き込みに苦労はなかったといいます。また、役員報酬を削減目標に連動させ、経営評価に取り込んでいます。積水ハウスは、環境推進部が意思決定をリードし、社内ですでに決定していたGX目標を反映する形で宣言を取りまとめています。

3社の意見交換を受けて、「需要側をプレーアップすることがGX市場創造の加速化につながることを再認識した」と竹下氏は述べ、「すでに取り組んでいる施策も大きな推進力になる。企業の皆様には積極的に宣言していただき、政府としてもこうした宣言企業のGXを積極的に後押ししていきたい」と締めくくりました。

グループディスカッションで課題と解決策を議論

短い休憩ののち、会場では10のグループに分かれて計2回のグループディスカッションを行いました。前半は「自社で実施しているGX製品の製造・調達の取り組みと、その課題や苦労」について話し合い、席替えでメンバーを入れ替えたのち、「課題に対する解決策」を議論しました。

需要側、供給側のさまざまなアプローチに加え、そうした取り組みを支援する立場からの意見も掛け合わされ、議論が立体的に展開していきます。GX価値の評価についてルール形成が途上にある中、各社がどのような方針で取り組みを進めているのか、真剣に意見を交わす様子に参加企業のみなさんの強い関心がうかがえました。

グループディスカッションには登壇企業も参加。宣言内容の取り組みについて具体的な質問が寄せられる場面もみられました。どのテーブルも途切れることなくディスカッションが進み、熱のこもった有意義な時間となりました。

イベントの締めくくりには、事務局の佐藤より挨拶を行い、参加への謝意を伝えるとともに、「需要と供給、官と民、大企業と中小企業など、それぞれがプレーヤーとなって一体で進めていくことが重要」と、積極的なアクションを呼びかけました。

GXリーグでは、次年度も引き続き、こうした参画企業同士の交流機会を設けていく予定です。業界や立場を超えて一体的に議論・交流する場として、今後もみなさまの参加をお待ちしています。