「GX×ネイチャーポジティブ」で企業成長へ、スタートアップとのビジネスマッチングイベントを開催

2025.04.11

GXリーグでは、先端テクノロジーを積極活用したGX事業創発を目指し、スタートアップ企業とのビジネスマッチングの機会を設けています。2025年3月6日には、「GX×ネイチャーポジティブ」をテーマに、関連するスタートアップ4社を招いた「ビジネス機会創発の場」を開催しました。本イベントにはオンライン、オフライン合わせて60名程度の参画企業有志が参加し、関心の高さがうかがえました。


経済産業省の折口直也氏
経済産業省の折口直也氏

冒頭、開会の挨拶に立った経済産業省の折口直也氏は、「民間企業の間でGXの取組が盛んになっているなか、取組をいっそう深化させるべく、サーキュラーエコノミーや生物多様性など、GXに隣接する分野とのシナジーを考えていくときではないか」と、テーマ設定に至った背景を説明。過去のマッチングイベントからMOU締結に至った事例にも言及しつつ、この場をきっかけに連携・共創へと発展することに期待を寄せました。

イベントには、ネイチャーポジティブに取り組むスタートアップから株式会社イノカ、株式会社BG、DeepForest Technologies株式会社、株式会社シンク・ネイチャーの4社が参加。イベント前半には、各社によるプレゼンテーションとパネルディスカッションが行われました。

スタートアップ企業によるプレゼンテーション

イノカ

イノカ CEOの高倉葉太氏
イノカ CEOの高倉葉太氏

イノカは、生物多様性を守るだけでなく、“攻めのサステナビリティ”として企業の産業競争力に活かすことを目指しています。特に日本の海洋資源に着目し、藻場やサンゴ礁などの生態圏を用いたビジネスを展開。サンゴ礁をはじめとする海洋生態系を室内空間に再現する「環境移送技術®」の研究を進めており、この独自技術を企業のアセットと掛け合わせ、生態系に配慮した商品の共同開発や、副産物を有効活用するプロジェクトにも取り組んでいます。

CEOの高倉葉太氏は、同社の技術の強みとして「再現性」を挙げます。天候条件が変化しやすい場所や立ち入りが難しいエリアの環境を安定的に再現できるため、データ収集や実験が容易になり、これまでに200を超える水槽で環境移送を行ってきました。

「生物多様性は、個社、国内だけで完結する問題ではないと考えている」と高倉氏。瀬戸内海における産官学連携プロジェクトをはじめ、教育活動やアジア市場への進出にも意欲的で、将来的には陸の環境移送などの新規ビジネス創出も視野に入れています。

BG

BG 取締役の富松俊彦氏
BG 取締役の富松俊彦氏

2023年に創業した農業ベンチャーのBGは、「NEXT GREEN REVOLUTION」をミッションに掲げ、人(作り手と食べ手)と地球(環境)にとってよりよい農業の普及に取り組んでいます。生態系バランスの良い土壌の基礎をつくる独自のソリューションを生産者に提供することで、より経済的で持続可能な農業への転換を支援するとともに、その下支えとして、農業活動の中で生まれる脱炭素に留まらない水質や生態系など多面的な環境影響をLCAによって可視化した、日本で初めての畑作農業由来のカーボンクレジット「NEXT GREEN CREDIT」を創出。国際規格であるISO認証を取得しています。

同社はこのクレジットを活用して、デベロッパーと、より付加価値の高い農産物の利用を通じて社員の食の質向上も叶えるカーボンニュートラル社食や不動産開発時の伐採木を農業資源として活用する有機資源循環の仕組みを開発したり、食品メーカーと契約農家の有機的な農業への転換を支援したりと、人と地球双方のウェルネスを高めるプロジェクトを推進。取締役の富松俊彦氏は、「クレジットがカーボンオフセットのために使われるだけでなく、企業の本業とシナジーを生む活用事例を積み上げていきたい」と意気込みます。

「農業には、環境に良い取り組みがおいしい食につながる産業だからこそ、環境貢献と経済成長を両立していくことができる大きな可能性がある」と富松氏。農作物のおいしさや環境影響を可視化することで、付加価値の高い野菜の生産と供給を広め、生活者が選択できる日常を築いていきたいとしました。

DeepForest Technologies

DeepForest Technologies 代表取締役の大西信德氏
DeepForest Technologies 代表取締役の大西信德氏

京都大学発ベンチャーのDeepForest Technologiesは、ドローンとAI解析を掛け合わせ、森林の状況を正確にモニタリングする技術を開発しています。世界で初めて確立した樹種識別技術を用いたオリジナルソフトウェアを提供するほか、企業などの森林管理やJ-クレジット創出・販売のサポート、森林経営計画の策定支援なども行っています。

世界の森林を取り巻く状況について、代表取締役の大西信德氏は「森林状況の正確な把握がまだまだできていない」と述べ、正確なモニタリングが進展することにより、変化の検知や生物多様性の保全、さらにはさまざまな森林資源の利用可能性の検討も可能になるとしました。

同社はドローンのほか航空データの解析も得意としており、これまでに官公庁の調査や企業の森林DX、森林経営の計画の支援など、幅広い連携事業を行っています。今後、広葉樹林の有用性評価やナラ枯れ対策など、ネイチャーポジティブに資するモニタリング技術も強化していきたい考えです。

シンク・ネイチャー

シンク・ネイチャー 取締役社長COOの舛田陽介氏
シンク・ネイチャー 取締役社長COOの舛田陽介氏

シンク・ネイチャーは、自然資本への投資が評価され、豊かな社会経済へとつながる世界の実現を目指すネイチャーテック企業です。科学者集団である強みを活かし、多種多様な生物関連データを統合した世界最大級の生物多様性データベースを情報基盤として、企業向けに環境リスクやビジネス機会の可視化を行っています。

データ解析にはAIを活用し、独自の種分布マップを作成。科学的バックグラウンドに基づいた、ビジネス上の意思決定に耐えうる精度を実現しています。加えて、気候や土地情報などの環境データをひもづけた解析を行っている点も大きな特長で、取締役社長COOの舛田陽介氏は、「気候変動シナリオを用いた生物多様性への影響予測を定量的に示すことができる」と同社の強みを語りました。

同社はこれまで、40社近い企業のNX(Nature-based-Transformation)支援に携わっています。舛田氏は、「生物多様性に関してはデータが複雑で難しいと思われがちだが、可視化する方法はある。ビッグデータを活用してマーケットを創っていきたい」と力を込めました。

パネルディスカッション

続いて行われたパネルディスカッションでは、産業界において生物多様性とGXをどのように統合し、経済価値として顕在化させるかについて議論。カーボンクレジットの課題、生物多様性の意義、自然資本の経済価値化における課題などに焦点が当てられました。

パネリスト:
イノカ CEO 高倉葉太氏
BG 取締役 富松俊彦氏
DeepForest Technologies 代表取締役 大西信德氏
シンク・ネイチャー 取締役社長 COO 舛田陽介氏

モデレーター:
株式会社野村総合研究所 シニアコンサルタント 中田北斗氏

① カーボンクレジットの付加価値化・差別化

炭素の経済価値化に関しては、カーボンクレジットを事業に組み込んでいるものの、需要が見つからないという声もあります。大西氏は、森林由来のカーボンクレジットの半数が売れ残っている現状に触れ、透明性の向上が求められていることを指摘。「カーボンクレジットの評価指標に生物多様性が加われば、付加価値が高まり、差別化も可能になるのでは」との見解を示しました。

富松氏は、「クレジットを活用したカーボンオフセットは、現状コストでしかなく意欲的な企業が少ないと感じる」と述べ、炭素だけでなく水質や生物多様性といった多様な環境影響をみること、また、そのアクション自体を事業・産業の発展に繋がるものにすることによって、CSRではなく企業の本業とのシナジーを生むものにすべきとの考えを示しました。実際にブランディングやマーケティング施策として活用する企業も増えてきていることから、戦略的な投資の中にクレジット制度をうまく組み込むことが重要としました。

② 生物多様性保全の意義と課題

ネイチャーポジティブへの取り組みは、変化や影響が目に見えづらいこと、データがなく測定が難しいことなどが課題に挙げられます。高倉氏は、「生物多様性の保全は、エネルギーマネジメントの問題ではないか」と述べ、地球外からもたらされる太陽光エネルギーの効率的活用こそが重要であり、そのためには生物多様性の保全によって経済的損失を防ぐことが大切だとしました。また、「科学的な証明が進めば、自然回復の価値が高まるのではないか」とも述べました。

データに関する課題について、舛田氏はデータの「目的依存性」に着目すべきと指摘。「何を見たいのか」によって必要なレベルは異なるため、目的にひもづけて効率的に見ていく考え方が重要だとしました。さらに、「現地調査でたまたま見た、見なかったというデータで生物多様性を証明するのは難しい」と述べ、天候条件などの環境データと統合し、多面的に分析することで自然の経済価値を可視化できる可能性を示しました。

③ 自然資本の経済価値化の課題と可能性

自然資本と経済価値のつながりは、炭素に比べて見えづらいのが現状です。舛田氏は、経済価値化するポイントとして、サプライチェーンのリスク管理(調達コスト削減・付加価値化)、不動産価値向上の見える化、企業ブランディングなどを挙げました。ただし、セクターによっては付加価値を生み出しづらいことから、セクターごとにより良いアプローチを模索していく必要性を強調しました。

その中で、林業や森林の分野では、FSC(森林管理認証)の評価項目に生物多様性が含まれていることから、「森林認証にひもづけることで評価しやすくなるのでは」と大西氏は指摘。絶滅危惧種の数だけでなく、さまざまな要素から森林の価値を可視化すべきとの考えを示しました。

ディスカッションの締めくくりには、今後の展望やビジネスマッチングの可能性について話題が及びました。「地球資源を利用していない企業はない。今後は企業経営において、資源の最適利用が重要になっていくはず」(高倉氏)、「資源の多くを海外に依存する中で、国内に目を向けることは産業発掘につながる。ネイチャーポジティブが見直しのきっかけになるのでは」(富松氏)、「生物多様性の評価基準が定まっていない今こそビジネスチャス。事業連携の可能性が大きな分野だと思う」(大西氏)、「企業は自然資本を意識せざるを得ない時代。課題解決そのものを成長分野として、みなさんとビジネス化を考えていければ」(舛田氏)と、各氏が力強いメッセージで共創を呼びかけました。

グループディスカッションで真剣議論!

イベント後半、会場では登壇企業を囲んでグループディスカッションを実施しました。途中、席替えを行ってメンバーを入れ替えながら、ネイチャーポジティブに向けた自社の取り組みやプレゼンテーション・パネルディスカッションから得た気づきについて意見交換を行いました。

各テーブルでは、自社の抱える課題について登壇企業へ知見を求めたり、素朴な疑問をぶつけ合ったりと、活発な議論へと発展。参加者のみなさんは互いの発言に真剣に聞き入り、意見を交わしていました。

時間が経つにつれて、ディスカッションは具体的な方法論や解決策の話題が中心となり、各テーブルで身振り手振りを交えた濃密な議論がなされました。


約50分のディスカッションののち、中締めとして事務局の佐藤より挨拶を行い、参加への謝意とともにイベントを総括しました。「ネイチャーポジティブとGXは不可分であり、その関係性を深く理解し、積極的に取り組んでシナジーを生み出していく必要がある」と述べ、次年度以降のより一体的な展開に向けて、連携・共創に期待を寄せました。閉会後、会場ではネットワーキングの場を設け、多くの参加企業が対話や交流を続けるなど、有意義な機会となったようです。