COP29において経済産業省が削減貢献量についての講演・パネルディスカッションを開催。削減貢献量の標準化に向けて活発な議論が行われました。

2024.12.13

2024年11月17日(現地時間)、COP29会場内ジャパン・パビリオンにおいて、経済産業省・WBCSD(World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための経済人会議)共催によるイベント「産業及び金融分野における削減貢献量の標準化に向けて」が開催されました。

2023年に続き、2024年のG7気候・エネルギー・環境大臣コミュニケの結論において、「削減貢献量(Avoided Emissions)」が産業部門の脱炭素化に資する概念であることが再確認されたことを踏まえ、本イベントでは、削減貢献量の普及に向けて、国際的に利用できる基準の開発や、そのための連携の重要性についての議論が行われました。

国際イニシアチブ・NGOを含む各国のパビリオンにおいて連日多くのイベントが行われるCOPにおいて、本イベントの会場は立ち見も出る満員となりました。削減貢献量に対する国際的な関心の高まりがうかがえました。

削減貢献量の普及のための国際協力に向けて

開会のスピーチとして、経済産業省の田尻 大臣官房審議官が登壇。日本がネットゼロの達成に向けて重視することとして、「脱炭素・経済成長・エネルギーの安定供給を同時に達成すること」、「ネットゼロに向けた取り組みは各国の経済・エネルギー事情によって多様であること」、および「ソリューションを通じて世界の脱炭素に貢献すること」の三点を提示し、三点目における削減貢献量の概念の意義を説明しました。

削減貢献量の普及に向けて、透明性・相互運用性を高める信頼性の高い基準が必要であり、基準設定機関、金融機関を含む企業、第三者機関の連携が重要との考えを示しました。

WBCSD Dominic Waughray氏による講演

初めに、共同主催者であるWBCSDのExecutive Vice Presidentを務めるDominic Waughray氏が講演を行いました。

まずWaughray氏は過去数年にわたってWBCSDが経済産業省と連携してきたことについて言及し、謝意を表明しました。2030年の削減目標に向けて「我々には一層の努力が必要である」とし、「サステナビリティに関する開示基準がイノベーションを促進することが重要」と述べ、削減貢献量の開示の意義を説明しました。

Waughray氏は続けて、削減貢献量の開示に向けて標準化された方法論の重要性を述べたうえで、2023年のG7気候・エネルギー・環境大臣コミュニケにおいて削減貢献量の概念が認識されたことの意義を強調。講演後半では削減貢献量に関するWBCSDの取組や成果物を紹介しました。

ISSB Mardi McBrien氏による講演

続いて、 ISSB(International Sustainability Standards Board:国際サステナビリティ基準審議会)のChief of Strategic Affairs & Capacity BuildingであるMardi McBrien氏が登壇。世界におけるサステナビリティ開示基準の浸透状況に触れつつ、世界中で共通の基準を定めることの重要性を指摘しました。

McBrien氏は、共通の基準に向けてISSBがGRI(Global Reporting Initiative:グローバル・レポーティング・イニシアチブ)やPCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials:金融向け炭素会計パートナーシップ)、ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)、CDPなどの組織との連携を強めていることを概説し、さまざまなプレーヤーが協調・参加することの重要性を強調しました。

ケーススタディの紹介

セミナーは続いて日本企業のケーススタディの紹介に入り、WBCSDのSenior ManagerであるMarvin Henry氏が進行役を担いました。Henry氏は冒頭、WBCSDが同日に公開フィードバックプロセスを開始した削減貢献量のガイダンス資料について紹介、幅広い意見を求めました。

ケーススタディでは、みずほ証券の森下サステナビリティ推進部長、味の素の高橋サステナビリティ推進部マネージャーが登壇しました。
森下氏は、みずほ証券のグリーンボンド・トランジションボンドの事例を挙げたうえで削減貢献量をどのように活用しているかを概説。「企業の削減貢献量とScope3の開示は、飴と鞭の関係」とし、企業の削減貢献量の取組とScope3の取組はセットであるべきと論じました。
高橋氏は、味の素のアミノ酸の技術を活かした削減貢献の取組として乳牛・肉牛向け飼料の事例を紹介、「温室効果ガスの排出量削減と農家のコスト低減の両方に貢献できる」と説明。今後WBCSD・日本政府との連携をより強化し、「日本や世界の温室効果ガス削減に貢献していく」との考えを示しました。

国際イニシアチブ・機関によるパネルディスカッション

セミナーはその後、パネルディスカッションに移行。国際イニシアチブ・機関による、協働の重要性について繰り返し強調しつつ、積極的な意見交換が行われました。

モデレーター:Alexander Nick氏(WBCSD Senior Director)パネリスト:Angelica Afanador氏(PCAF Executive Director)、Ovais Sarmad氏(GHG Protocol Steer Committee Vice-Chair)、Benoit Desforges氏(ISO ISO/TC207/SC 7 Chair)、上原 宏敏氏(パナソニックオペレーショナルエクセレンス CS担当 執行役員)
モデレーター:Alexander Nick氏(WBCSD Senior Director)
パネリスト:Angelica Afanador氏(PCAF Executive Director)、Ovais Sarmad氏(GHG Protocol Steer Committee Vice-Chair)、Benoit Desforges氏(ISO ISO/TC207/SC 7 Chair)、上原 宏敏氏(パナソニックオペレーショナルエクセレンス CS担当 執行役員)

PCAFのAfanador氏は、「グリーンファイナンス、トランジションファイナンスにおける削減貢献量の役割とは」という質問に対し、金融機関における開示基準を設定する立場から、「多くの金融機関がグリーンインフラ、グリーン製品、グリーン技術、ソリューションへの投融資額を開示しているが、その投融資が実際にどの程度、実体経済の排出削減・削減貢献につながっているかが不透明」であり、グリーンウォッシングとの批判を受けるリスクを避けるという観点で、金融機関にとっても削減貢献量の基準が重要であるとの考えを示しました。

基準改定のプロセスが進行中のISO、GHG Protocolに対しては、「基準改定において、削減貢献量はどのような位置づけか」との質問が投げかけられました。Sarmad氏、Desforges氏は「世界中のステークホルダー、専門家と議論を重ねている」と説明しました。

IEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)を代表してパネルディスカッションに参加したパナソニックの上原氏は、ソフトウェア業界を含む電子・電気機器に関して、ISOやWBCSDと緊密に連携し、削減貢献量の基準策定に向けて最終段階に入っている状況を説明しました。
また上原氏は、電子産業において削減貢献量の標準化の議論が進んでいることについて、「過去、企業たちが各々独自のルールで削減貢献量の算定・開示を行っていた。これがグリーンウォッシングの議論につながった。」と指摘しました。IECではこの経緯を踏まえ、①削減貢献量と企業自身の排出量を相殺することを禁止し、②ベースラインを市場平均として保守的に計算することを明確にしたと述べました。


閉会の挨拶には経済産業省の前田地球環境対策室長が登壇。「企業はリスクファクターではなく、ソリューションプロバイダーになりつつある」と指摘し、「削減貢献量の普及に向けて、G7コミュニケにとどまらず、その先にも取り組んでまいりたい」と結びました。

本イベントでは、ますます削減貢献量に注目が高まっていることが明らかとなり、政府・国際機関・金融機関・企業が一層連携していくことの重要性が改めて認識されました。GXリーグとしても、GX経営促進ワーキング・グループの活動を中心として、削減貢献量のさらなる普及に向けた外部との対話を続け、企業成長と脱炭素の両立を実現するべく貢献をしていきます。