2024年9月19日、GXリーグ参画企業同士が自由な対話を通じて交流を深める「GXスタジオ」を開催しました。今年度初開催となった第1回のテーマは、「サプライチェーン全体における脱炭素」。社会全体として脱炭素が受容・促進される流れを生み出すため、現在進められている政策や先進的な取組について情報共有するとともに、東京の会場に集まった約70社の代表者が活発な意見交換を行いました。イベント前半の講演はオンライン配信を行い、全国から200社近くの参画企業が視聴参加しました。
開会の挨拶に立った経済産業省の竹下敬太氏は、参加者への謝意とともに、GX関連の政策状況について言及。「GX市場の創造」を重要テーマに掲げ、カーボンプライシングなど中長期的な施策と並行して、短期的にはGX製品の付加価値向上に向けたGX価値の見える化および評価枠組みの構築を進めていることを挙げました。「昨年度のGXリーグで実施したワーキング・グループでの議論をもとに、経産省の研究会のもとで『削減実績量』という新たな指標を打ち出し、今年度はその定量化手法について議論しているところ。見える化させた価値を適正に評価する枠組みについては、GXリーグ内に設置したWGにおいて今年度議論しており、GX市場創造を推進していくため、引き続きご注目いただきたい」と竹下氏。GXリーグの活動への積極的な参加とともに、交流の場を通じた情報共有を呼びかけました。
イベント前半には最新の政策動向やベストプラクティスの講演が行われ、環境省脱炭素ビジネス推進室・デコ活応援隊、大和ハウス工業、アシックスが登壇してそれぞれの取組を紹介しました。
環境省によるプレゼンテーション
バリューチェーン事業エンゲージメントガイドおよびCFP算定支援(脱炭素ビジネス推進室)
環境省は、バリューチェーン全体のGHGマネジメント促進のため、中小企業も含め、事業者の状況やニーズに合わせて「知る・測る・減らす」の3ステップで脱炭素化を支援しています。
バリューチェーン全体での脱炭素経営促進のため、2023年度は、個別企業を対象に、バリューチェーンでの企業間連携や削減施策検討を目指すモデル事業を実施。目標設定から取引先企業への働きかけ、共通ルールの策定・検証まで、一連の取組の伴走支援を行い、同年度3月には、モデル事業結果を踏まえ、取引先企業への働きかけ方法についてまとめた「バリューチェーン全体の脱炭素化に向けたエンゲージメント実践ガイド」を公表しました。今年度は、個別企業の取組支援に加えて、業界単位の取組支援も実施。業界におけるScope3算定ルールの共通化やバリューチェーン上の企業への依頼方法の統一化などに向けたモデル事業に取り組んでいます。
カーボンフットプリント(CFP)に関しては、「2021年に策定した『地域脱炭素ロードマップ』に明記されているように、企業が削減努力を自主的に見える化し活用できる環境の整備が急がれる」と述べた同省脱炭素ビジネス推進室の田中優理香氏。CFPについても個別企業と業界を対象としたモデル事業を実施しているところです。また、本年6月に成立した改正温対法において、排出量の少ない製品の製造や選択促進に関する規定が設けられたことも踏まえ、「モデル事業を通じて先進的なロールモデルを創出するとともに、幅広い製品・サービスに適用できるような業界ルールの共通化を目指していく」としました。
「デコ活」普及に向けた取組(デコ活応援隊)
企業への支援事業と並行して、環境省では国民の行動変容を促す取組にも力を入れています。2030年のGHG排出削減目標を達成しつつ、より豊かな暮らしを実現する国民運動として、2022年10月に「デコ活」を開始。1,800以上の企業や自治体、団体等からなる「デコ活応援団」を発足させ、脱炭素製品やサービスの需要喚起・拡大に取り組んでいます。「2030年度までのGHG排出削減目標では、暮らしの分野で大幅な削減が求められている中、個人の具体的な行動に結びついていないのが現状。脱炭素は頑張るものではなく、暮らしにメリットがあるものという意識づけが必要」と同省地球環境局 デコ活応援隊(脱炭素ライフスタイル推進室)の金井塚彩乃氏。2024年2月に「くらしの10年ロードマップ」を策定し、衣・食・住、移動といった暮らしの7つの領域について、国民消費者目線でボトルネックを明確にし、構造的な解消と行動変容を促進する計画を示しました。
「GX製品の普及拡大には、国民のライフスタイル転換が非常に重要。より大きな輪でデコ活を盛り上げていけるよう、みなさまと取り組んでいければ」と金井塚氏は述べ、参画企業の積極的な関与に期待を寄せました。
参画企業による取組紹介
大和ハウス工業
大和ハウス工業は、グループ全体の「ネットゼロ目標」として、2030年度にバリューチェーン全体のGHG排出量40%削減(2015年比)を掲げています。自社の新築施設を原則すべてZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化する取組を推進するほか、社有車および従業員が業務に利用するマイカーのEVへの切り替えを推進。また、RE100に加盟し、自社の電力使用量を上回る再エネ発電を行い、その再エネ価値を活用してRE100の達成を目指しています。幅広い用途建物を手がける強みと再エネ発電のノウハウを生かし、顧客のZEB化や再エネ利用を積極的に提案・サポートするとともに、国内初となる再エネ100%のまちづくりにも力を入れています。
一方、資材製造段階の脱炭素化の見通しが立っておらず、バリューチェーン全体に占めるGHG排出量は2030年までほぼ横ばいであることから、同社は「サプライヤーの脱炭素化」と「資材・建物の脱炭素化」の2つのアプローチで対策を推進。対サプライヤーでは、2018年度から200社強の主要取引先を対象にサプライヤー・エンゲージメントを進めています。各社の規模や取組状況に応じて複数のエンゲージメント施策を実施し、SBT水準のGHG削減目標の設定を要請するとともに、その目標を達成できるよう支援しています。2023年度はGHG削減目標設定率が9割を超え、SBTレベルの削減目標設定率も約6割に上るなど、地道な活動の成果が現れています。また、資材面では、製造時排出量の多い鋼材の「再資源化スキーム」によるアップサイクルのほか、適材適所で木材・木質材料の活用も進めています。同社経営戦略本部 サステナビリティ統括部の山本亮氏は、「いずれの取組も大きなインパクトを与えるには至っていないが、引き続き取引先との協働を通じてサプライチェーンの脱炭素化を推し進め、その付加価値をお客さまに還元していきたい」と力を込めました。
アシックス
早くからCFPに着目し、2010年には米大学と共同研究を実施するなど、他社に先駆けて環境負荷低減に取り組んできたアシックス。自社のCO2排出量のうち、材料調達と製造段階の排出量が約7割を占めることから、サプライチェーンのCO2排出量を2030年に63%削減(2015年比)する目標を掲げ、一次生産委託先工場の省エネ・再エネ化、リサイクル材への切り替え、製品回収プログラムといったアクションを通じてバリューチェーン全体の脱炭素化を推進しています。
「令和3年度に、環境省による『サプライチェーンの脱炭素化推進モデル事業』に参加したことがターニングポイントになった」と同社サステナビリティ部環境チームの池田和道氏。排出削減の目的・意義を明確化し、経営層のコミットを得たことで具体的な計画を検討しやすくなったのに加え、ボトムアップとトップダウンの双方のアプローチで実効的な戦略策定につながったといいます。この成果をもとに、2022年に5つの要件からなるグリーン調達方針を設定し、事業部から発信。既存工場に対しては期間を設けて移行を促し、2024年9月時点でほぼすべての対象工場が要件を達成しています。さらに、こうしたサプライヤーとの連携による削減努力を可視化する取組として、製品の材料調達から廃棄までの800以上のデータを収集・分析し、第三者認証を得たCFPを主力製品に表示。対象製品を段階的に増やしながら、消費者の意識や行動変容につなげるねらいです。池田氏は、「必要なタイミングで適切な支援を得ること、経営層の巻き込み、社内実行部署やサプライヤーとの関係構築」を脱炭素推進のポイントに挙げ、連携・協働の重要性を強調しました。
グループディスカッションで自社の取組や課題を共有
イベント後半には、テーブルごとに分かれてグループディスカッションを実施。途中、席替えを行い話し合うメンバーを入れ替えながら、前半には「サプライチェーン上流への働きかけ」、後半は「サプライチェーン下流への働きかけ」について議論しました。
業種もサプライチェーン上の立ち位置も異なる企業同士が、立場を超えて率直な意見を交わし、足元の課題を見つめるとともに相互理解を深める時間となりました。
ディスカッションには、登壇企業や環境省、経済産業省のメンバーも参加。各テーブルの議論に熱心に耳を傾け、参加者のみなさんと意見を交わす場面も多く見られました。約40分のディスカッションは大いに盛り上がり、終了の時間になっても、参加者のみなさんは話し足りない様子でした。
閉会の挨拶として、事務局より参加への感謝をあらためて伝えるとともに、GXリーグの今後の取組についても情報共有しました。「こうした自由な交流の場を年度内に複数回予定しているほか、ビジネス機会創発の取組としてスタートアップ企業とのマッチアップ交流も企画している。このような場をうまく活用し、ぜひ各社のGX推進に役立ててください」と引き続きの参加を呼びかけ、第1回GXスタジオは盛況のうちに終了しました。