サプライチェーン全体でGXを推進するには? 第3回GXスタジオで業種を越えて議論

2022.11.16

GXリーグ賛同企業が集まり、自由な対話を通じて交流する「GXスタジオ」が2022年10月31日、3回目の開催を迎えました。

今回のテーマは「サプライチェーン全体におけるGXの推進」。さまざまな業種の企業が参加し、GXを加速していくための共通言語や目標を見つけながら議論を行いました。

日本企業のCN取り組み実態

ディスカッションに先立ち、Scope3における日本企業の取り組み実態について調査結果の共有がありました。

上場企業や一部上場企業を対象に行った調査から、日本企業の脱炭素の取り組み実態が明らかに

500社を超える企業の回答から、サプライチェーン上流・下流それぞれの主要な取り組みや、他社との協働状況、グリーン調達状況などついての実態が明らかに。個社でのアクションはさまざまにみられましたが、その動きを大きな力に変えていくには、引き続き自社の脱炭素だけでなくサプライチェーン全体の取り組みを加速していく重要性が浮き彫りになりました。

こうした状況をインプットした上で、業種の異なる3社の賛同企業が登壇し、それぞれの取り組みを紹介しました。

賛同企業によるプレゼンテーション

アストラゼネカ

アストラゼネカの光武裕氏によるプレゼンテーション

アストラゼネカは、2020年1月に「アンビション・ゼロカーボン」を掲げ、2030年までに全世界でのカーボン・ネガティブ達成に向けた取り組みを推進しています。世界で全排出量の96%を占めるScope3のCN実現に向けては、「アストラゼネカ白書」を作成するとともに、さまざまな社会ネットワークに参加しています。

サプライチェーンに対する取り組みとして、製品面では呼吸器疾患用医療機器を伴う薬品に使用されているフロンガスを代替フロンに転換する動きを進めています。また、サプライヤーに対し、SBT(Science Based Targets)認証への働きかけや、再生可能エネルギーを共同調達できるプラットフォームの構築にも力を入れるなど、リーダーシップを発揮しています。

ジャパンサステナビリティ部門の光武裕ディレクターは、「気候危機は公衆衛生上の緊急事態という強い認識を持っている。“猶予はあと8年”という科学的見地をもとに、積極的にシグナルを発信することで脱炭素化を後押ししていきたい」と述べ、全員参加の重要性を強調しました。

島津製作所

島津製作所の三ツ松昭彦氏によるプレゼンテーション

環境問題を経営の最重要課題のひとつに掲げる島津製作所では、主要取引先に個別のKPIを設定し、脱炭素化に取り組んでいます。具体的には、取引規模の大きい83のサプライヤーに対し、2025年までに省エネ診断を受けてもらい、2030年度までの削減目標と工程を策定した上で、各社の脱炭素への取り組みを支援するというものです。

2021年度にはこの取り組みを通じて5つの業者ごとにキーパラメーターを特定し、排出量を算出する方式を打ち出しましたが、「現状ではScope3の一部のカテゴリーしかフォローできていない」と環境経営統括室の三ツ松昭彦マネージャー。個社で取り組む難しさを課題に挙げながらも、蓄積したデータを生かして検討を重ねていきたいとしています。

同社はまた、本社を置く京都府が行う、サプライチェーンのCO2排出量削減に向けた補助事業にも参加しており、地域の中小企業を後押しすることで脱炭素化を加速していく考えです。

大成建設

大成建設の大池一城氏によるプレゼンテーション

大成建設は、「人がいきいきとする環境を創造する」という経営理念のもと、グループを挙げてSX(Sustainability Transformation)を推進しています。2030年にScope3 CO2排出量の原単位を約三分の一減らすことを目標に、独自技術や製品の開発に取り組んでいます。

なかでも、製造時に多量のCO2を排出するセメントを使用せず、工場などで排出するCO2を吸着・固定する環境配慮コンクリートの開発・普及に力を入れています。サステナビリティ経営推進本部 環境マネジメント部 環境経営推進室の大池一城室長は、「GXリーグ賛同企業とも開発・事業化で協働している。しかし現在の規制では指定建築材料と認められないため、規制緩和が大きな課題。経団連を通した働きかけなどを行っている」と現状を述べました。

また、CN実現には既存ビルの改修がカギになるとして、グリーン・リニューアルZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の普及拡大による成長・成熟を目指しています。

グループディスカッションで積極的に意見交換

短い休憩をはさんで、イベント後半にはディスカッションを実施。5人前後のグループになって膝を突き合わせ、プレゼンテーションの感想を交えながら「サプライチェーン全体でGXを推進するには?」をテーマに自由な議論が始まりました。

グループディスカッションの様子

業種ごとの取り組みの推進度や、サプライチェーンにおける立ち位置によって考え方が異なる中、互いに通ずる課題や目標を見つけ、それを“共通言語”にしながらディスカッションが進展していきます。
会場では手振りを加えて熱心に語ったり、真剣にメモを取ったりする様子がたくさんみられたほか、オンラインでもたくさんのチャットコメントが寄せられ、約20分の議論は大いに盛り上がった様子でした。

セッションの締めくくりとして、各グループで話し合った内容を全体に共有。

グループで話し合った内容を全体で共有

参加者のみなさまのコメントからは、既存の業界ルールには限界があり、柔軟な判断が必要なフェーズに入っているという共通認識がうかがえました。GXリーグを通じた来年度以降のルール共創に期待が高まります。


閉会の挨拶に立った経済産業省の橋本翔汰氏は、「サプライチェーン全体での脱炭素は業界関係なく、全体で自分ごととして議論の土台にしやすい話題といえる」とテーマの重要性を再確認しました。そして、「GXリーグには現在500を超える企業が賛同してくれており、リーグの中にも無数のサプライチェーンが存在している。国際発信力のあるルールを作っていきたいと考えているので、来年度からの本格稼働の際には、ぜひ引き続きご意見や協力を賜りたい」と結び、活動のさらなる深化に期待を寄せました。

3回目となるGXスタジオは、密度の濃い対話が生まれ、参加企業のみなさまも有意義な時間を過ごせたようです。今後も、関心の高いテーマをピックアップしながら月1回程度開催していきます。次回は、12月中旬の開催を予定しています。