2050年のカーボンニュートラル実現に向けて発足したGXリーグ。
これまでにない枠組みで動き出したリーグが目指すのは「対話による共創」です。運営事務局メンバーとして活動する野村総合研究所・佐藤仁人(写真右)と博報堂・上地浩之(写真左)が「対話で創るGXの未来」をテーマに語り合いました。
佐藤:まずは自己紹介から。ふだんは野村総合研究所のサステナビリティ事業コンサルティング部で、官公庁や民間企業に対して、カーボンニュートラル・GX関連のコンサルティングサービスを提供しています。GXリーグでは、プロジェクトマネージャーとして十数名のチームメンバーとともに、取り組みの一つひとつに貢献できるよう全体統括を担っています。
GXは、日々の生活の中ではなかなか見えにくいものですよね。私自身、ライフワークとしてエネルギー業界に関わってきて、休みの日には新しいエネルギーシステムについての本を書いていたりします。そういった知見や経験を活かして、うまく世の中のムーブメントを創っていけるように発信・サポートしていくことが役目だと思っています。
上地:私は博報堂で15年ほどコミュニティやコクリエイション(共創)の領域に専門的に携わってきました。GXリーグでは、主にブランディングの観点から、GXに取り組む企業が世の中から正しく評価されていくための戦略策定を行っています。
今から20年ほど前、環境省の脱炭素・環境配慮に関する国民運動のブランディングを担当したのですが、20年の間に、意識改革から社会システムをつくるフェーズへと、時代はずいぶん変わったなぁと感じます。私自身も2人の子どもを持ち、親として、社会人として、生活者として貢献していけるよう、やりがいを感じながら取り組む日々です。
なぜGXの未来創出に向けて対話が重要なのか?
佐藤:GXの取り組みはまったく未知数のところに向かっていて、やっていることが正解かどうかもわからない中、進んでいくしかない。でも、やらされた取り組みでは本腰になれないというか、真の推進力は生まれないんですよね。
上地:そう。そこに解は存在しない、というか。誰かが解決してくれるものではなくて、この領域はこれから解を創っていかなきゃいけない。そのために、業界を超えてさまざまな立場の人と一緒に解を探っていく。その過程で多くの企業や人に参加してもらい、リーダーシップを発揮できる環境を整えていきたいと思っています。
佐藤:意見をぶつけ合って議論して納得した上で、100%の答えじゃないかもしれなくても「これしかない!」というものに進んでいく。そのプロセスも含めてやりがいがありますよね。
上地:GXは、企業が我慢を強いられるものじゃなく、前向きに取り組んでいけるものでありたい。ここでやりたいのは「つらいね」ではなくて、明るい未来を目指していくための対話。だからこそ、ワイワイガヤガヤした雰囲気をつくって進めていきたいと考えています。
その点では、賛同企業からも「他企業との議論はなかなか長続きしないけど、GXリーグがあることで定期的に場を持てるのはありがたい」と、前向きな声をいただいているんですよ。
佐藤:それ、すごく大事ですよね。一見関係なさそうな立場の人と横のつながりを持って、そこから何が生まれるかわからないような段階から対話をして気づきを得て前進できる……そういう長期的に役立つ枠組みってなかなか多くないので、GXリーグがまさにそのような場になることが来年度、再来年度に生きてくるはずです。
上地:未来の連携を生み出していく場。
佐藤:そこに遊びの機会を与える機能を持っておくことが重要。脳のふだん使っていない部分を刺激するような場になればいいですよね。
上地:うんうん。実際、企業単独での取り組みには限界があるでしょうし、脱炭素は社会全体の動きにしていかないといけないことは多くの人が感じていたはず。始動から約半年ですが、こういう機会をみんなが求めていたんだな、と実感しています。
GXリーグが提供する3つの対話機会
上地:GXリーグでは現在、大きく3つの対話の場を設けています。未来像策定、ワーキンググループ、GXスタジオがあり、それぞれ目指すものが違うため、あるべき対話の質も異なってきます。
ひとつ目の未来像策定は、目指す未来社会への目線を合わせていくための “自由な対話” という位置付けです。具体的な活動については、事務局・根本が紹介しているのでぜひ読んでみてください。
100社以上での対話で描く、2050GX社会の未来像 | GXリーグ公式WEBサイト
佐藤:ワーキンググループは、GXの市場創造に向けてガイドラインやルールを作っていくために議論する場で、“出口を見据えた対話” とも言えます。業界を超えて多くの企業が共通で目指せるような、一定のルールに落とし込むのが目的なので、論点を示して議論を戦わせながら調整を行っていく、という感じですね。
ルールを作ることがゴールではなくて、世の中に市場が形成されることが本当のゴール。そのためには、完全にフリーな意見交換ではなく、対話にも型やルールを設けて、より多くの企業と一緒に最適解を探っていくものにしたいと考えています。
上地:参加者が多いと議論は大変だけれど、できあがったもののインパクトは大きいし、浸透させやすいメリットもありますよね。
ワーキンググループが比較的硬めなのに対して、GXスタジオはゴールやルールを設けていません。月に一度、テーマを変えながらみなさんと交流して、課題を共有したり連携のきっかけになったりと、“お互いを知る対話” ができたらいいなと考えています。
GXスタジオはすべての賛同企業が参加して盛り上がれる場となるように設計しています。オンラインとオフラインのハイブリッド型で盛り上がりを作るにはどうするか、どんなテーマを設定するか、どうしたら対話の心理的な安全性を高めていけるか……試行錯誤ばかりですが、ありがたいことに賛同企業のみなさんも受け入れてくれているように感じています。
佐藤:ウェブ環境や、コミュニケーションツールを使ってどこまで対応できるのかを含めて、賛同企業にとっても実験の場にしてもらえるといいですね。GX自体が大きなチャレンジなので、みんなで創りながらリーグを発展させていきたいです。
GXの未来に向けた対話への挑戦
佐藤:リーグでは現在、全体の議論ではSlack、未来像のワークショップではMiroと、対話の特性に合わせてさまざまなデジタルツールを使っています。今後は他のツールも試していきたいですね。一方で、新しいツールを取り入れすぎないことも大事。みなさんに使い慣れてもらうには時間がかかるし、対話の活性化につながらないと意味がないので。実際、セキュリティの問題でツールを使えない企業も少なくないのが悩ましいところ……。
上地:事務局としては大変ですが、今年は一つひとつに対応しながらコミュニケーションを良くしていきたい。企業にとってもチャレンジになるということに意味があると思っています。
佐藤:これだけ多くの企業が集まった上でのツールのあり方は、最先端が最適とは限らないし、最適なことも常に変わっていく。GXリーグとしては、常に半歩進んだ行動を起こしていって、そのノウハウをみなさんに持ち帰ってもらいたい。これは私たちにとっての挑戦ですね。
上地:今は事務局と賛同企業との間でのやりとりがメインですが、企業同士が対話を深めていってくれるようになると、もっとGX推進につながると思っています。先日、Slackのグループチャンネルで、ある方がGXリーグとは関係ない困りごとを「どなたかご存じないですか?」と投稿していたんです。そうしたら、別の企業の方が「知っていますよ、ミーティングしましょう!」と応答していて。そんな対話がすべての企業の間で広がったら……。
佐藤:なんだかわくわくしますね! ただ、活発化すればするほど、対話がより重要に、難しくなってきているのも事実。いいところを活かしていく責務は増しているな、と感じます。
上地:運営面ではまだまだ進化が必要ですが、みなさんの協力も得ながら進んでいきたいと思っています。参加してくださっているみなさんにあらためて感謝をお伝えするとともに、来年度の本格始動では、より多くの企業の方にGXリーグにご参加いただけるとうれしいです。