「生活者のGX習慣はどのように喚起できる?」
「GXの価値が正しく評価・支持されていくには?」
社会全体でGXを推進するためには、生活者の意識変化とアクションが欠かせません。この課題解決への道を探るべく、8月19日(金)に「GXスタジオ」が開催されました。
GXスタジオは、GX社会の実現に向けて先進的な活動を行っている企業をスピーカーに迎え、業種を超えた自由な議論や対話を通じて新たな視点を持つ、交流の場です。第1回であるこの日は「生活者の行動変容」をテーマにオンラインとオフラインの同時参加型で開催し、「Zoom」のチャット機能も活用しながらディスカッションを行いました。
事前ヒアリングから3つの課題を共有
イベントに先立ち、参加者から事前にヒアリングした内容から、大きく3つの課題が浮かび上がりました。
- 生活者に環境価値をいかに伝え、育むか?
- 企業のGXへの取り組みや商品の環境価値をいかに評価・可視化するか?
- 企業単体での活動の限界、業種による“偏り”への懸念
この課題認識を全体で共有した上で、すでに生活者向けに行っている事例として、富士通、ライオン、ウフルの3社が登壇し、自社の取り組みを紹介しました。
自治体との協業による市民向けアプリ開発
富士通は、創業の地である神奈川県川崎市とともに、市民の環境配慮行動浸透に向けた取り組みを行っています。そのひとつが市民向けのアプリです。これは、ライフスタイルに関する質問への回答や専用SNSへの投稿などでポイントを貯めて、環境活動に還元していくもの。アプリのコンテンツやサービスを拡充していくには他企業の協力や連携が不可欠ですが、「“いいね”と言ってはもらえても、実際に協力を得るまでのハードルが高いのが課題」だといいます。未来社会&テクノロジー本部の南後有希氏は、「不確かな価値を一緒に育てていくという共感・育成型アプローチが前進のカギになる」と話し、GXに向けたストーリーをいかに伝えるかが重要だとしました。今後、この環境分野の取り組みを皮切りに、同社のテクノロジーを活用し、イノベーションによる持続可能な社会の実現を目指します。
詰め替えパウチの浸透でエコなライフスタイルをつくる
「より良い習慣づくりで人々の毎日に貢献する」を掲げるライオンは、2050年にカーボンネガティブとプラスチック循環を実現することを目指しています。国内の年間CO2排出量およそ10億トンのうち約16%が家庭から出ていることに触れ、家庭で暮らすことがよりエコになるような製品づくりとして、詰め替えパウチの市場拡大に力を入れています。「今ある生活者の行動軸をもとに、製品を通じて価値を作り替えながら新しいライフスタイルを提案していきたい」と岡野知道執行役員。現在競合他社と共同で行うプラスチック容器の回収・再生活動を例に挙げ、単独企業での実現は難しくとも、小さな取り組みが業界ぐるみの動きに発展すれば長期的な成功につながると語りました。
CO2やごみの量を見える化して意識を変える
データ連携基盤などを通じて企業や自治体のデジタル関連支援を行うウフルは、脱炭素とスマートシティを掛け合わせた2つの取り組み事例を紹介しました。ひとつはスマートフォンアプリ「SPOBY」で、車や電車の代わりに歩くことで削減できるCO2の量を可視化・ポイント化し、貯めたポイントを買い物に利用できるようにして脱炭素を促すもの。もうひとつは、藤沢市で実証した「ごみ量可視化・減量コンテスト」で、ゴミ収集車にIoT機器を設置し、AI分析によってどの地区が相対的にゴミを減らせたかを数値化した取り組みです。古城篤CROは、こうした取り組みを生活者の行動変容につなげていくには「習慣」がキーワードになるといい、「いかに内発的動機によって動かすか。そのためには自己効力感を向上させる施策が重要になる」と提言しました。
それぞれのプレゼンテーションの合間には質疑応答が行われ、会場とオンラインそれぞれから積極的に質問が寄せられました。
グループセッションでは「連携の可能性」について意見交換
イベント後半ではグループディスカッションが行われ、5、6人のグループに登壇発表者や事務局メンバーが加わり、「連携の可能性」について議論しました。それぞれのグループで自己紹介を行ったのち、自由な対話が広がっていきます。プレゼンテーションの内容を受けて、さまざまなアイデアが出されました。
30分弱というディスカッションの時間はあっという間に終了。最後に、生活者の行動を変えるために私たちには何ができるのかについて、話し合った意見の全体共有を行いました。
「生活者にしっかり寄り添うのは難しい。大胆な連携が必要であり、そこにビジネスチャンスがあるのでは」
「生活者の内発的動機を促すことが必要。価値観を醸成し、その先に選択するものを提供して支援するのが企業の役目」
「同調力を高めるきっかけづくりには“おトク”や“好き”など多様な入り口があり、GXにおいても有効ではないか。ストーリーを持って語ることが大切」
といった意見が挙がり、対話を通じてたくさんの気づきが得られたようです。
「いろいろな業種の人々が共通の課題について話し合える場は楽しく、みなさんにはぜひ気づきを持ち帰っていただきたい。これを機会に交流を深めていただき、社会全体の脱炭素の機会へと変え、共に実現に結びつけていきたい」と経産省の中山竜太郎課長補佐から挨拶があり、イベントは盛況のまま終了となりました。会場ではその後も登壇者を囲んだ熱心な語り合いが続いたほか、オンラインディスカッションも継続され、時間の許す限り交流を深める様子があふれました。
GXスタジオは、業種の異なるさまざまな人が集まり、GXという共通目的に向けた自由な交流とアイデア創発の場として、今後もテーマを変えながら月1回程度開催していく予定です。