GXリーグ参画企業間の交流促進を目的として、直接対話を中心に自由な交流を行う「GXスタジオ」。2023年度最後の開催となった第5回イベントは、「ルール形成を通じたグリーン市場の創造」をテーマに、2024年2月27日にイイノホール・カンファレンスセンター(東京・霞ヶ関)とオンライン配信のハイブリッド開催で行われました。
GXリーグの活動の柱のひとつに「市場創造のためのルール形成」があります。2022年度から、テーマ別の市場ルール形成WG(ワーキング・グループ)を立ち上げ、官民連携のもと取り組んできました。
今回は、2023年度までに成果物を公表、あるいは活動を終えたWGから、「GX経営促進WG」「グリーン商材の付加価値付け検討WG」「ボランタリーカーボンクレジット情報開示検討WG」のリーダーを務めた企業3社が登壇し、取り組みの振り返りや今後の事業への展開可能性などについて発表。また、パネルディスカッションでリアルな経験談を共有し、インタラクティブな議論を行いました。
多様性×共通課題で“民”主体のルール形成を
イベント冒頭、あいさつに立った経済産業省の折口直也氏は、参加者へ謝意を述べるとともに、今回のテーマについて説明を行いました。
「ルール形成はまさに連携によって行うべき協調領域。われわれとしては、同じ土俵を整備することで“個”から“共創”へと、企業の取り組みを後押ししていきたい」と折口氏。GXリーグでルール形成を行うメリットとして、①業種も規模も異なる多くの企業が関与している多様性、②課題解決に向けた共通意識を挙げ、各社が知恵を持ち寄って、ボトムアップ型で課題解決につなげていく意義の大きさを強調しました。
さらに、GXリーグは官民連携の枠組みであることから、政府のチャネルや国際会議などで広く発信できること、より普遍的なルールとして社会実装につなげていけることなど、実証や発信の面でも多くの利点があるとしました。
次年度の活動については、「業界横断的なテーマを掲げ、連携の厚みを増しながら取り組みを進展させていきたい」と述べた折口氏。2024年4〜5月に活動テーマと参画企業を募集し、6月頃にWGを始動したい考えを示しました。
第1部:WGリーダー企業によるプレゼンテーション
第1部では、テーマ別WGのリーダーを務めた野村ホールディングス、日立製作所、sustainacfaftが登壇し、それぞれのWGの活動を振り返りました。
野村ホールディングス(GX経営促進WG 幹事企業)
GX経営促進WGは、企業の持つ気候変動への貢献面を適切に評価する仕組みを構築することを目的に、2022年度はリーダー企業6社を含む73社で活動。企業活動における「機会」について、概念や開示・評価の方針などを整理した『気候関連の機会における開示・評価の基本方針』を公表しました。メンバー企業が92社となった2023年度は、新たな評価軸「削減貢献量」の活用普及に向け、『削減貢献量 金融機関における活用事例集』を作成し、2023年12月にドバイで開催されたCOP28において発表しました。
リーダーを務めた野村ホールディングス サステナビリティ企画部の濟木ゆかり氏は、「参加企業の多さもさることながら、多様なセクターから率直な意見が寄せられ、考えが一致しないことも多かった」と、取りまとめの難しさを振り返りました。そのような中でも、全体最適が何かを重視し、かつ早期からWBCSDをはじめとする国際イニシアチブと連携して世界標準のルール形成に取り組んだことで、「社会実装に向けて着実に進めてこられたのでは」と手応えを感じています。
同WGでは、メンバー企業の「具体的にどのように開示すればよいかを示すべきでは」との声を受け、削減貢献量の開示モデル集を作成しており、2024年3月中の公表を予定しています。
日立製作所(グリーン商材の付加価値付け検討WG 幹事企業)
グリーン商材の付加価値付け検討WGは、2023年1月より17社で活動。各社の具体商材のユースケースを想定した提案をゴールに掲げ、業種別に5つのグループで議論したものを全体会議で共有・深掘り。約1年間の活動の成果として、同年12月に『グリーン商材の付加価値付けに関する提言書』を公表しました。
提言書では、グリーン価値の新指標として「Δ(デルタ)CO2」の活用を提案。実際の削減量に着目して削減努力を見える化するもので、その活用方法と評価方法を整理し、具体商材のユースケースまでを盛り込みました。また、排出削減量の配分に関しては、「マスバランス方式」の概念を参考に効率的に配分し、経済活用することを提唱。ΔCO2については具体的なルール策定に向け、経済産業省の「産業競争力及び排出削減の実現に向けた需要創出に資するGX製品市場に関する研究会」へ議論のバトンをつないでいます。
日立製作所 グローバル環境事業本部の峯博史氏は、「提言書の公表をもってWGの活動はひと区切りとなったが、議論したものをメンバー企業が各業界へ持ち帰り、新たなWGやガイドライン策定に取り組んでいる」と述べ、ルール形成が着実に進展していることを示しました。
sustainacraft(ボランタリーカーボンクレジット情報開示検討WG 幹事企業)
ボランタリーカーボンクレジット情報開示検討WGは、国内のボランタリーカーボンクレジット市場確立が急がれる中、企業が安心安全に活用できる環境づくりを目的として、2023年2月から活動を行いました。
メンバー企業は約50社で業種も多様だったことから、ボランタリークレジットの中でも自主的な活用に論点を絞り、メンバー企業の見解を定量的に分析・整理。リーダー企業5社を中心に合意形成を進め、情報開示のあり方と今後の市場形成に向けた提言を『ボランタリーカーボンクレジット情報開示検討WG 最終報告書』に取りまとめ、同年12月に発表しています。同報告書は海外のメディアでも取り上げられ、リーダーを務めたsustainacraft 代表取締役の末次浩詩氏は、「日本のマーケットはまだ活性化しておらず、海外からは“伸び代がある”と期待が高い。諸外国に向けて現状を発信できたことは大きな意味があった」と力を込めました。
報告書の公表をもってWGの活動は終了し、「国内市場が実証を行える段階に至っていない中、拠り所となる情報ソースを作ることができた」と末次氏。今後、企業が着実に実績を積み上げていくことで、ルール形成のステップに進めるのではないかとの見解を示しました。
第2部:リーダー企業×経済産業省 パネルディスカッション
第2部では、登壇したリーダー企業3社と経済産業省 折口氏によるパネルディスカッションを実施。ウェブコミュニケーションツール「Slido」を活用して、オン・オフ両ラインから寄せられた質問をピックアップし、WG運営の経験を踏まえた率直な意見を交わしました。
Q:合意形成にどんな苦労や課題があったか?
野村ホールディングス 濟木氏(以下、濟木):全員が100%納得できるものにするのは難しかったです。すでに先進的に取り組んでいる企業から経験に基づく意見をいただいたことで、合意形成が進んだと思います。
日立製作所 青木氏(以下、青木):WGをどれくらいの規模でやるかが重要。われわれは17社と少数精鋭だったものの、意見が食い違うことも多くありました。矛盾するものでなければ互いの意見を認め合い、小意を捨てずに提言に盛り込むように工夫しました。
sustainacraft 末次氏(以下、末次):参画全社で議論を進めるのは難しいので、特にストーリーを描いて提言をまとめる最終部分は、リーダー企業への負荷が大きかったですね。
経済産業省 折口氏(以下、折口):リーダー企業のみなさんには、かなり試行錯誤していただきました。われわれから「こういうアウトプットがあるといい」といった要望も含めて、早い段階から認識合わせができていれば……という反省もあり、次年度はなるべく同じ方向を向いて連携を深めながら、よりよく進めていきたいと思っています。
Q:各WGの成果を今後どのように活用していく?
濟木:2年間の活動で、まだ世の中に浸透していない考え方を定義するところから、国際発信までつなげることができました。これからは社会実装に向けて、セクターごとに検討する段階に入ったのではないかと感じています。
青木:グリーン商材のインセンティブの仕組み構築を進めたいですね。現在、経産省でΔCO2について議論してもらっており、期待しているところです。標準化に向けて海外とのネットワークを作っていくことも重要だと思っています。
末次:ルール形成はもちろんですが、ボトムアップの取り組みも並行して進めていくことが大事です。今後はより多くの人に現場を知ってもらう活動にも力を入れていくつもりです。
折口:グリーン商材WGの提言を研究会に連携したように、各WGからのアウトプットについては、政策側でも実際にうまく活用できるような協調のしかたを考えていきます。
Q:GXリーグだからこそできたこと・よかったことは?
濟木:普段は相対する立場の企業同士が率直に議論できたことは、GXリーグならではの貴重な機会でした。ただ、この枠組みが生きるフェーズは限られます。WGが提言する考え方が浸透してきた段階で、セクターごとの検討にスムーズにつながっていけば、より有意義に活用が進むのではないでしょうか。
青木:サプライチェーンの関係があり、やりづらさを感じる企業もあったと思いますが、その中でも率直な議論ができました。今後のWGは、業界構造や関係性を踏まえて座組みできるといいかもしれません。
末次:GXは、いろいろな産業の対立が生まれる分野でもあります。GXリーグは、共通の目的は持ちつつも、ひとつの活動に対してポジティブな人だけが集まるのではなく、全体でパブリック・コメント機能がはたらくところが強みだと思います。
折口:こうした官民連携は、政府のアプローチではとらえきれていない、企業のみなさんが実際のビジネスで直面している課題を浮き彫りにして、解決していくことに意義があると思っています。GXリーグからの提案を有意義な形でルール形成につなげていくため、次年度以降の活動にもぜひ積極的にご参加ください。
第3部:グループディスカッションで自由に交流
パネルディスカッションの後、会場ではテーブルごとにグループディスカッションを実施。「どのようなルール形成を進めてみたいか」を切り口に、登壇企業も加わって自由に意見を交わしました。
これまでGXに関連するルール形成に携わった経験談のほか、今後どのようなテーマや領域でどのようなルールがあると望ましいかなどを話し合い、参加者のみなさまがルール形成を自分ごととして考える時間となりました。
2023年度は計5回のGXスタジオを開催し、オフライン、オンラインともにたくさんの参画企業にご参加いただきました。回を重ねるごとに、会場では休憩時間や閉会後にも熱く対話する光景が多く見られるようになり、交流の輪が広がっているようです。
GXスタジオは、次年度も、GXを加速する連携・共創のきっかけの場となるよう、さまざまなテーマを取り上げて開催する予定です。みなさまのご意見やご参加をお待ちしています!