4月からの本格稼働を前に、GXリーグの最新情報を網羅的発信〜GXリーグ シンポジウム 2023 開催レポート【第1部】〜

2023.03.14

2023年2月14日(火) GXリーグ シンポジウム 2023


2023年2月14日に開催された「GXリーグ シンポジウム2023」では、2月10日に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」を踏まえて、「成長志向型カーボンプライシング構想」における「GXリーグにおける排出量取引(GX-ETS)」の位置づけや、官民共創のルールメイキングなどの取り組みを紹介。さらに海外の有識者の基調講演や企業経営者によるパネルディスカッションなども交えて、GXリーグの今後の活動を展望しました。

当日は会場のイイノホール(東京・霞ヶ関)に多くの参加者が訪れたほか、YouTube LIVEでライブ配信され、広くご覧いただく機会となりました。本記事では、第1部の模様をレポートします。
第2部第3部のレポートはこちらへ


開会の挨拶に立つ西村康稔経済産業大臣

開会の挨拶を行った西村康稔経済産業大臣は、産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へと転換させるGXで、世界をリードしていくことが日本にとって重要であり、GXの実現には、「成長志向型カーボンプライシング構想」を柱とする「GX実現に向けた基本方針」に、官民を挙げて果敢に取り組むことが必要と説明。GXリーグは、その実践を中核となってけん引していく枠組みで、大きなチャレンジとしました。GXの実現に向けては、「Learning by Doing」で政策づくりを進め、GXの実現で世界をリードしていくという強い覚悟をもって取り組むので、GXリーグ参画企業の引き続きの協力をお願いしたいと要請しました。

産業界・金融界のGXリーグへのコミットメント

スピーチを行った日本経済団体連合会(経団連)の十倉雅和会長

一般社団法人 日本経済団体連合会 会長 十倉雅和氏
「経団連が活動の中心にしているサステナブルな資本主義の実践は、持続可能な地球環境が大前提となっています。その実現にはGXを進める必要があり、GXは気候変動という社会課題に取り組みつつ、国内投資の活性化と持続的な経済成長に貢献するものです。『GX実現に向けた基本方針』では、『成長志向型カーボンプライシング構想』として、2026年度から排出量取引制度が本格稼働することになりました。この制度を活用して、温室効果ガスの着実な削減と、産業競争力の維持・強化の両立を目指すべきであり、適切な制度設計にあたっては、経済界の意見を踏まえてほしいと考えています。GXリーグへの経団連加盟企業の積極的な参加を引き続き呼びかける一方で、経団連自身もGXリーグの活動に参画するとともに、GXに向けた経済界独自の取り組みも強力に推進します」

十倉会長は、GXリーグ参加企業が切磋琢磨して、行動変容や投資の拡大といった「うねり」を起こすことを期待したいと呼びかけました。

ビデオメッセージを寄せた全国銀行協会の半沢淳一会長

一般社団法人 全国銀行協会 会長 半沢淳一氏
「『GX実現に向けた基本方針』では、GXリーグの自主的な取り組みが2023年4月から始まることが明記され、2月1日には第1フェーズに関するルールが公表されました。排出量取引制度の大枠が合意され、カーボンニュートラルに向けた重要な手段のひとつが形成されたと歓迎しています。一方で解決すべき課題もあり、課題の解決に向けた議論の積み重ねによって、GXリーグがカーボンニュートラルに対するドライバーとしての位置づけを確立することを期待しています。実際の排出量取引では、各企業が排出削減目標を設定し、取り組みを『見える化』することで各社間の協調や共創が生まれ、新たなビジネスにつながることも考えられます。GXリーグの活動が、ビジネス発展に向けた機運を醸成し、産業の活性化、国際競争力の強化に結びつくことを願っています。また、『GX実現に向けた基本方針』では、GX経済公債を活用した先行投資や、各種ファイナンスの推進などの政策が提示されました。GXに向けた官民連携が進むよう、銀行界も政策に対する意見を発信したいと思います」

半沢会長は、GXに取り組む顧客企業をあらゆる面からサポートすると強調しました。

GXリーグとの連携

GXリーグとの連携について述べた環境省の上田康治 総合環境政策統括官

環境省 総合環境政策統括官 上田康治氏
「GXという新たな市場の創造に対して、環境省では主に需要サイドから、地域の脱炭素化やライフスタイルの変革といった分野で、新しい技術やサービスなどの積極的な導入と国民運動の推進を通じて取り組みたいと考えています。特に地域の脱炭素化については、全国で取り組みを拡大させる必要があり、GXリーグとの連携を密にしながら、都道府県や市町村との連携を活用して、カーボンニュートラルを実現します。また、国際展開戦略としても、日本の優れた技術がアジア地域に展開することは、地球規模での脱炭素化と新たな市場拡大の両立に貢献し、『アジア・ゼロエミッション共同体構想』の実現にも資するものと思います。環境省としても、都市間連携といった手法を活用しながら、各省とも連携して、こうした地域のとの取り組みを発信したいと考えています」

上田氏は、GXの実現には官民一丸の実行が重要であり、関係省庁やGXリーグ参画企業と連携し、環境省としてしっかり汗をかきたいとしました。

GXリーグとの連携について述べた金融庁の川﨑暁 総合政策局参事官

金融庁 総合政策局参事官 川﨑暁氏
「金融庁としては、GXリーグに金融業界から多数の金融機関などが参画していることを歓迎しています。参加の輪がさらに広がることを期待し、GXリーグに参加する金融機関や企業などを後押しするべく、脱炭素に向けた金融機関と企業との対話を促進する方策などについて、検討会を立ち上げて議論を進めているところです。金融庁では、主に『企業開示の充実』『市場機能の発揮』『金融機関の機能発揮』の3点から、サステナブルファイナンスに関する取り組みを進めていて、また、カーボンクレジット取引の発展やGXファイナンスに関する人材の育成支援などについても検討を進めているところです」

川﨑氏は、サステナブルファイナンスに関する取り組みをはじめ、さまざまな取り組みを通じて、金融庁はGXリーグのさらなる発展に貢献したいと強調しました。

成長志向型カーボンプライシング

経済産業省の畠山陽二郎 産業技術環境局長

経済産業省 産業技術環境局長 畠山陽二郎氏

■GXに向けた世界と日本の動き
「カーボンニュートラル目標を表明する国が、現在、154カ国に増えていて、そのGDP総計は世界全体の約90%に達しています。EUやアメリカでは大胆な投資、政策競争も盛んで、EUでは10年間に官民で約140兆円の投資、アメリカは10年間で約50兆円の政府支援を、それぞれ行うとしています。ロシアのウクライナ侵略以降、エネルギー価格が高騰し、化石燃料に過度に依存することによるリスクが増大化しています。エネルギー自給率の低い日本は特にリスクが大きいので、GXに率先して取り組む必要があります。日本にはGX関連の技術があるので、それを生かして経済を成長軌道に乗せ、雇用や所得の拡大につなげる取り組みを進めたいと考えています」

■成長志向型カーボンプライシング構想
「2月10日に『GX実現に向けた基本方針』が閣議決定され、それに合わせて、成長志向型カーボンプライシング構想を具体化するための『GX推進法』などの関連法案も提出されることになりました。成長志向型カーボンプライシング構想では、今後10年間に150兆円を超える官民GX投資を実現することを目的に、GX投資に前倒しで取り組むインセンティブを付与する仕組みを創設します。その仕組みのひとつが『GX経済移行債』を活用した政府による先行投資支援です。今後10年間に20兆円規模を予定しています。また、カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブとして、排出量取引制度の本格稼働を2026年度から、発電事業者に対する有償オークションの段階導入を2033年度から、炭素に対する賦課金の導入を2028年度から、それぞれ行う予定です。有償オークションや炭素に対する賦課金は、GXの進展によって、負担の減少が想定される再生エネルギー賦課金や石油石炭税の減少額の範囲内で徐々に導入していくことになります。また、排出量取引については、2023年度からGX-ETSを導入し、知見やノウハウの蓄積、データの収集を行った上で、本格稼働につなげます。さらに、排出量取引の運営や賦課金の徴収などを行うGX推進機構も創設するほか、アジアでの展開などの国際戦略や中小企業のGXなどにも取り組む予定です」

■新たな金融手法の活用
「150兆円の投資で政府が支援するのは20兆円程度で、残りは民間投資ということになります。それを支えるファイナンスの重要性が増すために、新たな金融手法の活用が必要と考えています。具体的には、トランジションファイナンスの信頼性向上と国際発信、ブレンデッドファイナンスを活用した金融手法の開発・確立、気候変動情報開示の充実などサステナブルファイナンスの推進などに取り組むことにしています」

パネルディスカッション「GXへのリーダーシップ」

続いて、3社の企業経営者をまじえ「GXへのリーダーシップ」をテーマとしたパネルディスカッションを行いました。

パネルディスカッションの様子

日本製鉄株式会社 代表取締役社長 橋本英二氏
ENEOS株式会社 代表取締役副社長執行役員 宮田知秀氏
ダイキン工業株式会社 常務執行役員 澤井克行氏
経済産業省 産業技術環境局長 畠山陽二郎氏
モデレーター:メディア編集長 谷本有香氏

GX推進における大企業の役割

谷本:ステークホルダーを巻き込み、社会・経済全体のエコシステムを変革するのがGXで、そのけん引役となる大企業の役割は大きいといえます。2050年のカーボンニュートラルの達成だけでなく、それへの対応を成長の機会ととらえ、日本の産業競争力を高めることも求められます。各社はどのようにお考えでしょうか。

日本製鉄の橋本英二 代表取締役社長

橋本:2030年にCO2総排出量の30%削減、2050年のカーボンニュートラルを打ち出しています。海外の競合他社と比べてももっとも野心的な目標となっています。その実現に2つの視点からアプローチしています。ひとつは、省エネ・省資源の観点からの鋼材開発や、私たちのソリューションの提供によって、社会全体のカーボンニュートラル実現に寄与するというものです。CO2を排出する熱処理工程が必要のない鋼材や、重たいEV車の軽量化に貢献するより薄くて強い鋼材、モーター用高機能鋼材の開発などが該当します。これらは技術開発を終え、設備投資に入っています。もうひとつは、これから開発する地球上にない新しい脱炭素生産プロセスで、現在の素材の品質や機能を担保しようというものです。生産プロセスの変更であり、脱炭素の新商品が生まれるわけではないという意味で、他の製造業にない素材特有の難しさがありますが、グリーン・イノベーション(GI)基金の支援を受けて、大型高炉における水素還元製鉄の実機での研究・実験などにすでに着手しています。他国に先駆けて開発に目途をつけることが、基礎産業である鉄鋼業の使命であると考えて取り組んでいます。

ENEOSの宮田知秀 代表取締役 副社長執行役員

宮田:国内外での再生可能エネルギーによる発電、余剰電力を活用した水電解によるCO2フリー水素の製造、水素を使った合成燃料の研究、バイオ燃料の製造、ケミカルや金属のリサイクルなどに取り組んでいます。また、2022年からは、CO2の回収・貯留を意味するCCSの国内貯留に向けた検討も始めました。カーボンニュートラル社会の実現に向けて、エネルギー・素材を中心に幅広い分野で研究開発や実証に向けた取り組みを続けているところです。

ダイキン工業の澤井克行 常務執行役員

澤井:ダイキンの売り上げの約9割がエアコンです。今後、空調機は新興国で需要が伸び、冷房で使うエネルギーは、2050年には2015年の約3倍になるというデータもあります。ダイキンでは『ダイキン環境ビジョン2050』でカーボンニュートラルを宣言していますが、現在の温室効果ガスの排出量は約3.3億トン。Scope3の上流が約0.05億トン。これは部品の購入や流通過程で排出されるものです。Scope1と2が約0.01億トン。私たちの工場での製造過程で排出されます。そしてScope3の下流が3.3億トンとほとんど占めます。お客様が私たちの製品を使う際に排出されるものが約2.6億トンで、回収されなかった冷媒ガスに起因するものが約0.7億トンとなっています。圧倒的に多い空調機使用時の温室効果ガスを削減するために、使用時の電力消費量の低減、つまり省エネを掲げて、インバータ機などの普及拡大を進めています。また、ヨーロッパなどでは化石燃料である石油やガスを用いた燃焼暖房が多いので、ヒートポンプの普及拡大に取り組んでいます。放出される冷媒ガスの影響を低減するために、回収・再生サイクルの構築、温室効果の低い冷媒ガスの開発を行っています。

GX世界においてどのように競争力をもってビジネスを進めていくか?

谷本:次にGX世界において、どのように競争力を持ってビジネスを進めていくのかについてお聞きしたいと思います。脱炭素も成長も、世界の中での競争力も必要ですね。

橋本:私たちは開発力で世界一を自負しています。他国に先駆けてグリーンスチールを現実に供給できるようになれば、脱炭素時代のお客様の国際競争力を支えることができます。また、グリーンスチールとは何かを定義できるルールメーカーにもなれます。脱炭素技術を新興国などに移転すれば、日本の影響力の拡大にもつながると考えています。

宮田:私たちも研究開発でどれだけ先行できるかに着目しています。今日のような状況が来ることを10年ほど前から見据えていたので、基礎研究を続けてきました。研究開発にあたっても、私たちだけで行うのではなく、産学連携が非常に大事であり、異業種間での連携も必要です。例えば、直接MCHとよばれる水素キャリアを製造する特殊な電解槽の開発などにも、さまざまな業種のみなさんと協働で取り組んでいます。また、材料や触媒の開発にはAIも活用しており、実績をあげつつあります。

澤井:競争力を持ってビジネスを進めるには、私たちの場合は省エネエアコンの普及が大切で、それはカーボンニュートラルが叫ばれる前からやってきましたし、今後も続けます。暖房に関しては、ヨーロッパでヒートポンプが必要なので、ポーランドに専用工場の設立を開始しています。冷媒ガスについては回収のモデル事業を日本でスタートさせ、これを世界に広げたいと考えています。私たちは世界各地に研究開発拠点を置き、それぞれの国や地域に根ざした技術革新や商品開発、ルールの形成、インセンティブの獲得などを進めています。

谷本:経済産業省の視点はいかがですか。

畠山:GXとは、カーボンニュートラルに向けて、温室効果ガスの排出削減と、経済成長・競争力強化を両立させる取り組みと考えています。両立には徹底した省エネ・省資源によるコスト削減、化石燃料依存の低減によるリスクの低下、今はない新しい技術を開発し、実装することが必要と考えています。そのための政策を実施し、取り組んでいるところにファイナンスなどが集まるようにすることが必要ですが、大切なことは、取り組んでいる業種によって、取り組みのスピードが異なるので、その差を認識した上で政策を展開したり、資金を投入したりすることです。それができないとカーボンニュートラルに、なかなかたどり着けないと思います。

欧州や米国で官民協力して投資競争している中で、日本企業・政府はどのような戦略が必要か?

谷本:欧米では官民協力が進んでいるようですが、日本の企業と政府にはどのような戦略が必要でしょうか。

橋本:欧米はもちろんですが、中国の存在を忘れてはならず、対中戦略が必要だと思います。中国は国営企業中心で、国家の支援がビルトインされています。特に製造業は世界における中国の存在感が大きい。そこで大きなポイントになるのが、脱炭素に向けて生まれる新しい技術、知的財産の防衛です。もう1点は、CCUSやグリーン電力の供給のように、民間だけではできない、あるいは民間が勝手にはできない技術開発を、国家戦略上の投資と位置づけて、国が中心になって行ってほしいということです。

宮田:日本は電解槽や風車、太陽光パネルといったものの海外依存が高く、国内でつくるようにしないと、脱炭素を進める上での課題になりかねません。モノだけでなく人材についても、人口減少の中でどのように確保するかが大きな課題だと思います。また、水素やCCSなどの新しい取り組みには、規制だけでなく新しい法整備が、海外と伍していくためにも必要です。

澤井:新興国では、これからどんどんエネルギーを消費するようになる一方で、カーボンニュートラルも進めなければなりません。そこで日本の技術支援が必要になってきます。現在、アジアやアフリカでは国が支援を行い、その中でルール形成が図られています。JCM(二国間クレジット制度)の利用で、脱炭素と日本の利益を求めるのもそのひとつの方法でしょう。ヨーロッパでは産業を守るために、国境炭素税などの法整備を積極的に進めています。それに対して日本政府も意見・提言を行って、日本企業が有利になるようにし、結果として脱炭素が進むという方向に、リーダーシップを発揮して導いてほしいと思います。

畠山:政府としては、GXは成長戦略でもあると考えていて、成長を引き出すための投資として政策を進めたいと考えています。そのひとつが資金を投入するという意味での予算です。これまでの予算は、技術や研究開発に重点を置きすぎたきらいがあり、設備・実装なども含めて成長段階への投資も、もう少し行う必要があります。また、単に予算の投入だけでなく、民間事業者とのリスクをシェアしたり、税制で投資を促したりといったことも必要です。宮田副社長がおっしゃったように、これまでにない産業やビジネスモデルが生まれたりするので、それを円滑に進める法整備も行わなければなりません。そして、日本企業の強みをビジネスに結びつけるために、知的財産戦略の展開や標準化の獲得にもしっかりと取り組みたいと思います。

GXにおける市場ルールメイキング、市場創造、CPなどへどう取り組んでいくか?

谷本:日本企業の強みをビジネスに結びつけるには、市場ルールメイキングや市場創造、カーボンプライシングなどにも取り組まなければなりませんね。

橋本:やはり開発で先行することによって、定義者、あるいはルールメーカーになり、標準をつくっていくことになると思います。素材産業は足元や将来のお客様、あるいは市場のニーズに応えるのが使命で、これは脱炭素時代も変わりません。その意味ですでに市場はあり、あとはCO2を排出しない新技術でつくることができるのかが問われているのだと思います。研究開発も設備投資も、国内で行わないと日本のカーボンニュートラルにつながらないし、産業競争力の復活にもならないので、大きな投資の予見可能性といったものを高めることが大切で、国の主導が求められます。法整備も含めて急ぎ確立することが必要でしょう。カーボンプライシングについては、研究開発を阻害するようなものは長期的な国家の利益を損なうと考えています。

宮田:成長志向型カーボンプライシングには当社も賛同していますが、どのように進めるかが重要で、大きな課題だと思います。削減貢献といえば、私たちがつくる潤滑油は、自動車の燃費改善に大きく貢献しています。潤滑油をつくる際に排出するCO2よりも、潤滑油によって削減される自動車が走る際のCO2の排出量のほうがはるかに大きくなっています。こうしたScope1、2、3を超えた削減貢献のルールメイキングも大切だと思います。

澤井:先にお話ししたように、私たちの温室効果ガスの排出量の98%はScope3 で、その大半がお客様の手に製品がわたってから排出されたものです。そこにはなかなか手を加えることができません。その一方で、省エネ製品やヒートポンプなどの開発、提供を積極的に行っています。宮田副社長から削減貢献量についてのお話がありましたが、私たちも削減貢献量が重要と認識しています。削減貢献量はルールメイキングが途上であり、世界の枠組みの中でルールが決められるべきで、現在、あらゆるチャネルを通じて働きかけているところです。削減貢献量を世界で認知してもらうことが重要で、GXリーグでも引き続き取り組んでほしいと思っています。

谷本:国のスピーディーな対応が求められているようですね。

畠山:成長志向型ガーボンプライシングは、移行公債を発行してGXの先行投資を支援することであり、炭素に値づけすることで、GX関連の製品や事業の収益性を上げて、投資を呼び込むことです。それからGXに向けてファイナンスにしっかり取り組むことも重要です。市場づくりも極めて大切で、グリーンスチールのように、同じ機能を持った製品でも、製造過程でCO2を排出しないものは別のものとして扱う市場をつくる必要があります。削減貢献量についても市場づくりの中で扱うことが必要で、削減貢献量のルールメイキングは国内外で行う必要があるので、標準化が大切になってくると思います。こうした成長志向型カーボンプライシングや市場づくりのルールメイキングを行うのがGXリーグです。ワーキング・グループをつくったりしながら、官民で具体的な議論を進めたいと考えています。また、2023年はG7が広島で開催されます。削減貢献量も含めてコンセプトを世界に広めるとともに、世界で認められるようルールメイキングの議論も進めたいと考えています。

GXリーグへの期待

谷本:最後にGXリーグへの期待をお願いします。

橋本:成長に資するカーボンプライシングとは何なのか、これを具体的に詰めていくのがGXリーグの趣旨であり目的であると理解しています。GXが日本中に広まるには、国民の理解や行動変容が必要です。また、脱炭素社会が実現するまでには必ずコストアップがあるので、それも国民に理解してもらわなければなりません。GXリーグに多くの企業が参加することで、国民も理解も広がると思いますし、GXリーグをそういう場にすることも大切です。

宮田:GXリーグで、産学も含めて民民の連携や、異業種間連携をもっと広げてほしいと思います。集合知を持って新しい技術やバリューチェーンにトライするといった協力が、GXリーグでさらに広がることを期待します。

澤井:GXリーグには、世界の標準をつくることを強く意識して行動してほしいですね。特に今年はG7が広島であり、COP28がドバイで開催されるなど、大きなイベントが予定されています。そこでGXリーグがリーダーシップをとって、世界にルールメイキングを発信することを願っています。


第1部では、GXリーグの本格稼働に向け、政府の強い覚悟と産業界・金融界からのコミットメントが表明されました。さらに、GX推進において発揮すべきリーダーシップについても期待が寄せられ、GXリーグが果たすべき役割がいっそう鮮明になりました。