どんな情報開示が市場に求められ、企業の持続的成長につながる?「ESG情報開示」をテーマに第3回GXスタジオで積極交流

2023.11.28

GXリーグ参画企業同士の交流の場である「GXスタジオ」。毎回、参画企業の関心が高いテーマを取り上げ、さまざまな立場から脱炭素に取り組むプレーヤーたちが自由に議論を行います。11月2日の第3回GXスタジオには、会場のイイノホール&カンファレンスセンターに約60社の代表者が参加し、オンライン配信とのハイブリッド開催で活発な意見交換が行われました。


第3回のテーマは「ESG情報開示」。国際的にサステナビリティ情報開示の重要度が増しており、企業は適切な開示対応が不可欠になっています。しかし、こうした流れが加速する中、企業が開示する情報と投資家が求める情報は合致しているのか、ESGの取り組みは企業の持続的成長につながっているのか、といった疑問も浮上しています。

今回のスタジオは、資金を調達する側(企業)と供給する側(投資家・金融機関)がそれぞれの考えを持ち寄り、本音で意見を交わしながら、互いの視座を合わせることを目的にしています。

経済産業省の折口氏による開会のあいさつ

開会のあいさつに立った経済産業省の折口氏は、情報開示の持つ役割がますます高まっている現状を踏まえて、「今日は企業の肩書きを外してざっくばらんに議論していただき、みなさんの今後の取り組みの糧としていただきたい」と、活発な交流を呼びかけました。

企業側、投資側それぞれの課題感とは?

事前アンケートにはさまざまな論点や意見が寄せられた

意見交換に先立ち、参加者への事前アンケートに寄せられた課題感や知りたい内容を紹介。資金調達側からは「情報開示の内容が投資判断にどの程度活用されるのか」「複数の開示分野がある中で、押さえておくべきポイントを知りたい」、資金供給側からは「企業のパフォーマンス向上につながる取り組みかどうかが不透明」「比較評価できる開示形式が望まれる」といった意見が挙げられていました。

双方の課題感を認識・共有した後、プログラム前半のプレゼンテーションには、省庁からは経済産業省 経済産業制作局 企業会計室、参画企業からはアセットマネジメントOneとオムロンの2社が登壇し、それぞれの考え方と取り組みを紹介しました。

省庁によるプレゼンテーション

経済産業省 経済産業政策局 企業会計室

企業会計室の長宗室長によるプレゼンテーション

主にサステナビリティ経営やサステナビリティ情報開示のプロモーション政策に携わる経済産業政策局 企業会計室。同室長の長宗豊和氏は、日米欧のPBR比較調査結果を紹介し、ここ10年で状況は良化しているものの、日本企業の価値創造力向上が引き続き課題であると指摘。その要因として、低収益セグメントを抱え込む傾向が強いことを挙げました。企業を取り巻く外部環境の複雑化が追い打ちをかける中、企業価値を持続的に向上させていくには、事業ポートフォリオの最適化を含めた経営変革が求められるとしました。

経済産業省は、社会と企業のサステナビリティの同期化を目指すこうした経営変革=SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の重要性を提唱し、SX実践の手引きとして「価値協創ガイダンス」を策定・公表しています。

「現状では、事業ポートフォリオ変革に対する投資家と企業の認識ギャップが大きい」と長宗氏。企業は、将来ビジョンのもと中長期的な戦略で着実に経営変革を進めることで、資本市場からの期待が高まるとの考えを示しました。

情報開示においては、年々開示量が充実していく一方で、資本市場からの評価が減少傾向にあることについて、長宗氏は議論の必要性を指摘します。投資家サイドのリテラシーにも課題があるとし、「双方が質を高めることで、投資、対話、エンゲージメントの高度化を図っていく必要があるのでは」と述べました。

参画企業によるプレゼンテーション

アセットマネジメントOne

アセットマネジメントOneの寺沢氏によるプレゼンテーション

アセットマネジメントOneは、日本株の7割をパッシブ運用しています。ESGは、同社が重視する長期ビジョンとの親和性が高いことから、長期的視点に立って企業との対話を強化しています。運用本部 スチュワードシップ推進グループ エグゼクティブESGアドバイザーを務める寺沢徹氏は、「ESGなどの非財務の取り組みは、将来的に財務価値として反映されていくべき。財務情報として顕在化していく道筋を投資家は確認したい」との見方を示し、同社が力を入れるエンゲージメントの取り組みを紹介しました。

同社は、1年間で600を超える企業に対し、のべ2000件以上のエンゲージメントを実施。このうち約200社を重点対話企業として、ESG課題の設定から解決までを8段階のマイルストーンで管理しながら、対話の進捗を見える化しています。エンゲージメントの成果について、株価への影響を測ることは難しいものの、教育機関との協働で分析を進めています。

GXに関しては、「これまでの情報開示による評価ではなく、今後は実際の取り組みで評価していく」と寺沢氏。6つの評価項目を設け、具体的戦略をポイントとして、2050年ネットゼロに適う実効性を判断して投資を行う方針です。「投資家といっても、判断の時間軸やプロセスはさまざま。どんな投資家にアピール(開示)していくかが重要ではないか」と結びました。

オムロン

オムロンの劉氏によるプレゼンテーション

企業理念経営を掲げるオムロンは、サステナビリティをすべての企業活動の横串として、一体的に取り組んでいます。
同社は3つの実現したい社会ビジョンを定め、2030年以降の社会像からバックキャストする考え方でサステナビリティ重要課題を抽出。解決に向けて、財務側と非財務側がそれぞれ提供できる社会的価値と具体的目標を設定して取り組みを進めています。

重要課題のひとつである「脱炭素・環境負荷低減の実現」においては、エネルギー生産性100%増を目指すイニシアチブ「EP100」にコミットしており、自社のデータ活用基盤を用いてGHG排出量の可視化を実現。このビジネスモデルを外部提供することで、非財務から財務への価値転換を図っています。

「課題を成長機会ととらえ、取り組みによって事業がどれだけ成長できるかが重要」と同社サステナビリティ推進室長の劉越氏。中長期視点で本当に実現できる目標設定だけでなく、情報開示においても同様に中長期視点に立った対話の重要性を強調します。同社は、決算短信や統合レポート、自社サイトなど7つのメディアすべてを情報開示媒体として活用し、それぞれの特性と読者要請に沿った情報開示を行っています。投資市場や第三者機関からも高い評価を得ており、劉氏は「情報開示がブランド価値向上、企業価値評価に間違いなくつながっている」と成果を実感しています。

グループディスカッションで本音の交流!

オンライン配信終了後、短い休憩をはさんで、プログラム後半のグループディスカッションへ。資金調達側(事業会社)と資金供給側(投資家・金融機関)の双方がメンバーに含まれる12のグループに分かれ、登壇企業や事務局も参加して議論を行います。

最初にESG情報開示に関わる「取組/工夫」と「課題」について、資金調達サイドが黄色、資金供給サイドがピンク色の付箋に書き出し、全体共有シートに貼りながらディスカッションを開始。「課題」の書き込みが多めの印象でしたが、付箋の数とともに声の熱量が上がっていきます。企業の名前や肩書きにとらわれずに率直な意見を交わせる機会とあって、参加者のみなさんは実務の悩みを踏まえて真剣な表情で話し込んでいました。

約20分後に席替えを行い、メンバーを新たにして議論を再開。各テーブルに残されたワークシートに付箋を貼り足しながら、前半のプレゼンテーション内容をもとに議論を深めたり、あるキーワードを掘り下げたりと、各テーブルがそれぞれに話し合いを発展させていました。発言に同調するうなずきや、メモを取る姿も多く見られ、異なる視点に触れることでさまざまな発見があったようです。

約1時間のディスカッションの後、全体を通じた感想を共有。参加者の方々からは次のような声が挙げられました。

「ディスカッションの前後半で違った議論ができた。自社が工夫できている点を客観的に見られたので、持ち帰って生かしていきたい」

「投資家と企業だけでなく、社内での意識にもギャップがある。立場や目線が違う難しさがあり、みなさんが苦労されているところだと感じた。時間はかかるが、着実に取り組んでいくことが大切だと思う」


会場にはまだ話し足りない雰囲気が漂う中、イベントは閉会の時間を迎えました。事務局の田島より、参加への感謝とともにあいさつを行い、「“流れに従う”か“流れをつくる”かで、情報開示のやり方も変わってくるのではないか。GXリーグは脱炭素に積極的な企業の集団であるからこそ、率先して流れをつくっていける活動でもある。今日のような本音の対話を課題解決につなげていけるよう、これからもぜひ積極的にご参加ください」と、今後への期待を寄せました。

GXスタジオは、参画企業同士の交流の場として、そして連携・共創のきっかけの場としてみなさまに役立てていただけるよう、今後もテーマを変えて開催していく予定です。